継続的取引について将来負担することのあるべき債務についてした責任の限度額ならびに期間について定めのない連帯保証契約においては、「保証人たる地位は、特段の事由のないかぎり、当事者その人と終始するものであって、連帯保証人の死亡後生じた主債務については、その相続人においてこれが保証債務を承継負担するものではない」と判示しました。

事案の概要

  • 被上告会社は、昭和25年12月1日から、訴外D及びEと、代金は毎月末払いの約定にて肥料の取引を始めました。
  • この取引に当たって、以後、取引によって生じるD及びEの被上告会社に対して負担すべき債務について、上告人A2、訴外F、同G、同Hの4名が連帯保証しました。このうち、G、Hは、Eの、上告人A2、Fは、Dの各連帯保証人となりました。
  • 昭和26年12月頃からはDが単独で非上告会社と取引を続け、上告人A2及びFが依然としてDの連帯保証人の地位にありました。
  • 昭和32年6月7日、Fが死亡し、上告人A1が、Fの遺産につき3分の1の割合をもって相続しました。
  • 被上告会社は、A1及びA2に対し、Dがこの取引に関して昭和32年9月11日から同33年3月10日までの間に負担した肥料売掛代金債務の一部についての保証債務の履行を請求しました。

判決文(抜粋)

昭和37年11月9日第二小法廷判決
 前記原判示のような継続的取引について将来負担することあるべき債務についてした責任の限度額ならびに期間について定めのない連帯保証契約においては、特定の債務についてした通常の連帯保証の場合と異り、その責任の及ぶ範囲が極めて広汎となり、一に契約締結の当事者の人的信用関係を基礎とするものであるから、かかる保証人たる地位は、特段の事由のないかぎり、当事者その人と終始するものであつて、連帯保証人の死亡後生じた主債務については、その相続人においてこれが保証債務を承継負担するものではないと解するを相当とする。

前提知識と簡単な解説

相続の効力

相続は、被相続人の死亡によって開始し(882条)、相続人は、相続開始の時から、被相続人の一身に専属したものを除き(896条ただし書)、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(896条本文)。

保証(根保証)について

保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負います(446条1項)。保証債務は主たる債務の履行を担保することを目的とするため、主たる債務の存在を前提としますが(保証債務の附従性)、主たる債務は将来発生する債務であっても妨げられないと解されており(於保不二雄『債権総論(新版)』)、継続的取引契約から将来生ずべき債務について、多くの場合一定の決算期や一定の最高限度を定めて、これを担保する保証(「根保証」といいます。)も有効とされています(大審院大正14年10月28日判決等)。

問題の所在

根保証を含む継続的保証においては、保証人は、保証期間の存続する間、継続的に抽象的な基本的保証債務を負担し、契約所定の事由の発生するごとに、具体的保証債務を負担することになります。具体的保証債務には相続性が認められるとしても、基本的保証債務に相続性を認めるべきかが問題となります。継続的保証では、保証人の責任の及ぶ範囲が広範になるため、保証人が不当に苛酷な責任を負わされることのないよう考慮すべきであると考えられるからです。
本判決は、「継続的取引について将来負担することあるべき債務についてした責任の限度額ならびに期間について定めのない連帯保証契約においては、特定の債務についてした通常の連帯保証の場合と異り、その責任の及ぶ範囲が極めて広汎となり、一に契約締結の当事者の人的信用関係を基礎とするものであるから、かかる保証人たる地位は、特段の事由のないかぎり、当事者その人と終始するものであつて、連帯保証人の死亡後生じた主債務については、その相続人においてこれが保証債務を承継負担するものではない」としました。

追記

平成29年民法(債権関係)改正により、個人根保証契約の保証人は、「主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う」と定められ(465条の2第1項)、極度額を定めなかった場合、個人根保証契約は効力を生じないことになりました(465条の2第2項)。
また、個人根保証契約の元本確定事由も規定が設けられ、保証人が死亡したときには、個人根保証契約における主たる債務の元本が、確定することになります(465条の4第1項3号)。