事案の概要

  • Dの死亡によりE及び被上告人を含む4名の子が本件土地を共同相続した。
  • Dは遺言で各相続人の相続分を指定していたため、Eの相続分は80分の13であった。
  • Eは、本件土地につき各相続人の持分を法定相続分である4分の1とする相続登記が経由されていることを利用し、右E名義の4分の1の持分を上告人に譲渡し、上告人は右持分の移転登記を経由した。

本件判決の内容(抜粋)

最高裁平成5年7月19日第二小法廷判決
 右の事実関係の下においては、Eの登記は持分八〇分の一三を超える部分については無権利の登記であり、登記に公信力がない結果、上告人が取得した持分は八〇分の一三にとどまるというべきである(最高裁昭和三五年(オ)第一一九七号同三八年二月二二日第二小法廷判決・民集一七巻一号二三五頁参照)。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。

前提知識と簡単な解説

共同相続の効力について

相続は、被相続人の死亡によって開始し(民法882条)、相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継し(民法896条本文)、相続人が数人あるときは、相続財産は、共同相続人の共有に属し(民法898条1項)、各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します(民法899条)。この「共有」は、民法249条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではないと解されています(最高裁昭和30年5月31日第三小法廷判決)。

相続分について

民法は、同順位の相続人が数人ある場合の相続分を定めていますが(民法900条民法901条。「法定相続分」といいます。)、被相続人が遺言で相続分を定めていたとき又は相続分の指定を第三者に委託していたときは、これにより指定された相続分が法定相続分に優先します(民法902条。「指定相続分」といいます。)。

本判決の位置付け

本判決において引用されている昭和38年2月22日第二小法廷判決は、共同相続人の一人が単独相続したように登記していたという事案において、自己の持分以外については無権利の登記であること、登記に公信力がない以上、第三取得者も他の共有者の持分を取得することはないことを理由として、共同相続人は第三取得者に対して、「自己の持分を登記なくして対抗しうる」と判示したものです。
本判決もこの判例を踏襲し、指定相続分を超える部分については無権利の登記であり、登記に公信力がない以上、第三取得者が取得する権利は指定相続分に応じた持分にとどまると判断しました。

追記(平成30年相続法改正)

本判決に対しては、相続分の指定又は遺産分割方法の指定により権利を承継した相続人は、いつまでも登記なくして第三者に所有権を対抗することができ、法定相続分による権利の承継があったと信頼した第三者において不測の損害を被るおそれがあるという問題点が指摘されていました(『民法(相続関係)等の改正に関する中間試案の補足説明』)。
そこで、平成30年民法(相続関係)改正により、民法899条の2が創設されました。
同条1項では「相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない」と規定されています。