共同相続された委託者指図型投資信託の受益権及び個人向け国債は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはない、と判示しました。

事案の概要

  • Xら及びYは、いずれも平成17年9月30日に死亡した亡Aの子である。亡Aの法定相続人は、Xら及びYの4名であり、その法定相続分は各4分の1である。
  • Yは、亡Aの遺産の分割等の審判を申し立て、国債、投資信託受益権及び株式をいずれもXら及びYが各持分4分の1の割合で共有することを内容とする遺産の分割等の審判がされ、同審判は、平成21年3月25日、確定した。
  • Xは、Yに対し、本件国債等の共有物分割等を求めた。
  • 原審は、本件国債等はいずれも亡Aの相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割され、共同相続人の準共有となることがないから、本件遺産分割審判は、本件国債等が4分の1の割合に相当する金額、口数又は数に分割されてXら及びYに帰属している旨を確認したにすぎないものと解するのが相当であるなどとして、訴えを不適法なものとして却下した。

判決文(抜粋)

最高裁平成26年2月25日第三小法廷判決
(1) 株式は,株主たる資格において会社に対して有する法律上の地位を意味し,株主は,株主たる地位に基づいて,剰余金の配当を受ける権利(会社法105条1項1号),残余財産の分配を受ける権利(同項2号)などのいわゆる自益権と,株主総会における議決権(同項3号)などのいわゆる共益権とを有するのであって(最高裁昭和42年(オ)第1466号同45年7月15日大法廷判決・民集24巻7号804頁参照),このような株式に含まれる権利の内容及び性質に照らせば,共同相続された株式は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである(最高裁昭和42年(オ)第867号同45年1月22日第一小法廷判決・民集24巻1号1頁等参照)。
(2) 本件投信受益権のうち,本件有価証券目録記載3及び4の投資信託受益権は,委託者指図型投資信託(投資信託及び投資法人に関する法律2条1項)に係る信託契約に基づく受益権であるところ,この投資信託受益権は,口数を単位とするものであって,その内容として,法令上,償還金請求権及び収益分配請求権(同法6条3項)という金銭支払請求権のほか,信託財産に関する帳簿書類の閲覧又は謄写の請求権(同法15条2項)等の委託者に対する監督的機能を有する権利が規定されており,可分給付を目的とする権利でないものが含まれている。このような上記投資信託受益権に含まれる権利の内容及び性質に照らせば,共同相続された上記投資信託受益権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。
また,本件投信受益権のうち,本件有価証券目録記載5の投資信託受益権は,外国投資信託に係る信託契約に基づく受益権であるところ,外国投資信託は,外国において外国の法令に基づいて設定された信託で,投資信託に類するものであり(投資信託及び投資法人に関する法律2条22項),上記投資信託受益権の内容は,必ずしも明らかではない。しかし,外国投資信託が同法に基づき設定される投資信託に類するものであることからすれば,上記投資信託受益権についても,委託者指図型投資信託に係る信託契約に基づく受益権と同様,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものとする余地が十分にあるというべきである。
(3) 本件国債は,個人向け国債の発行等に関する省令2条に規定する個人向け国債であるところ,個人向け国債の額面金額の最低額は1万円とされ,その権利の帰属を定めることとなる社債,株式等の振替に関する法律の規定による振替口座簿の記載又は記録は,上記最低額の整数倍の金額によるものとされており(同令3条),取扱機関の買取りにより行われる個人向け国債の中途換金(同令6条)も,上記金額を基準として行われるものと解される。そうすると,個人向け国債は,法令上,一定額をもって権利の単位が定められ,1単位未満での権利行使が予定されていないものというべきであり,このような個人向け国債の内容及び性質に照らせば,共同相続された個人向け国債は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。
(4) 以上のとおり,本件国債等は,亡Aの相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることがないものか,又はそう解する余地があるものである。そして,本件国債等が亡Aの相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるものでなければ,その最終的な帰属は,遺産の分割によって決せられるべきことになるから,本件国債等は,本件遺産分割審判によって上告人ら及び被上告人の各持分4分の1の割合による準共有となったことになり,上告人らの主位的請求に係る訴えは適法なものとなる。

前提知識と簡単な解説

相続の効力

相続は、被相続人の死亡によって開始し(民法882条)、相続人は、相続開始の時から、被相続人の一身に専属したものを除き(民法896条ただし書)、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条本文)。
相続人が数人あるときは、相続財産は、共同相続人の共有に属し(民法898条1項)、各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します(民法899条)。この「共有」は、民法249条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではないと解されており(最高裁昭和30年5月31日第三小法廷判決)、「遺産共有」と呼ばれています。
各共同相続人は、遺産共有を解消するために、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができ(民法907条1項)、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、遺産の分割を家庭裁判所に請求することができます(民法907条2項本文)。

多数当事者の債権及び債務

数人で所有権以外の財産権を有する場合については、法令に特別の定めがあるときを除き、準共有として、共有に関する規定が準用されます(民法264条)。しかし、債権及び債務については、多数当事者の債権及び債務に関する民法427条以下の規定が、民法264条にいう「特別の定め」に当たると解されています。
多数当事者の債権及び債務については、民法は、原則として、各債権者又は各債務者が、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負うものとしています(民法427条)。また、判例は「その相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継する」としていました(最高裁昭和29年4月8日第一小法廷判決)。

本判決は、委託者指図型投資信託の受益権及び個人向け国債を、上記最高裁昭和29年4月8日第一小法廷判決にいう「可分債権」には当たらないと解し、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないと判断したものと考えられます。