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本判決の位置づけ

この裁判では,女性労働者につき,労働基準法65条3項に基づく妊娠中の軽易な業務への転換を契機として降格させる事業主の措置が,雇用機会均等法9条3項の禁止する取扱いに該当するかどうかが争われました。雇用機会均等法9条は、妊娠又は出産等を理由として女性労働者に対して不利益な取扱いをしてはならないと定めています。本判決は、妊娠を契機に降格させる措置は、原則として同法の禁止する取扱いに当たるとしたうえで、例外的に、許される場合はどのような場合かを示しています。

事案の概要

A事業主は、訪問介護施設や病院を運営し、訪問リハビリや病院内での病院リハビリ業務などの医療介護事業を行っていました。

Bさんは、平成6年に、理学療法士としてA事業主に雇用され、平成19年には、訪問介護施設の副主任として、訪問リハビリ業務について取りまとめを行っていました。

平成20年、Bさんは妊娠したため、労働基準法に基づいて、軽易な業務への転換を請求しました(労働基準法は、妊娠中の女性は、軽易な業務への転換を請求できることを定めています。)。これを受けて、A事業主は、訪問リハビリ業務よりも身体的負担が軽いとされていた病院リハビリ業務に変更させました。その際、病院リハビリ業務を行っているリハビリ科には、Bさんよりも職歴の長い職員が主任として取りまとめをしていました。A事業主は、リハビリ科への異動日付けで、Bさんを副主任から免ずる旨の辞令を出しました。

Bさんは、育児休業を終えて、平成21年、訪問介護施設に職場復帰をしました。ところが、既に訪問介護施設においては、Bさんよりも職歴が短い職員が副主任となっており、Bさんは再び訪問介護施設の副主任となることはありませんでした。
(実際の事案は複雑ですので、簡略化して記載しています。)

判決文の抜粋

女性労働者につき,妊娠,出産,産前休業の請求,産前産後の休業又は軽易業務への転換等を理由として解雇その他不利益な取扱いをすることは,同項に違反するものとして違法であり,無効であるというべきである。
女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は,原則として同項の禁止する取扱いに当たるものと解されるが,当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度,上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして,当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき,又は事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって,その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして,上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは,同項の禁止する取扱いに当たらないものと解するのが相当である。
そして,上記の承諾に係る合理的な理由に関しては,上記の有利又は不利な影響の内容や程度の評価に当たって,上記措置の前後における職務内容の実質,業務上の負担の内容や程度,労働条件の内容等を勘案し,当該労働者が上記措置による影響につき事業主から適切な説明を受けて十分に理解した上でその諾否を決定し得たか否かという観点から,その存否を判断すべきものと解される。また,上記特段の事情に関しては,上記の業務上の必要性の有無及びその内容や程度の評価に当たって,当該労働者の転換後の業務の性質や内容,転換後の職場の組織や業務態勢及び人員配置の状況,当該労働者の知識や経験等を勘案するとともに,上記の有利又は不利な影響の内容や程度の評価に当たって,上記措置に係る経緯や当該労働者の意向等をも勘案して,その存否を判断すべきものと解される。

簡単な解説

雇用機会均等法9条は、妊娠又は出産等を理由として女性労働者に対して不利益な取扱いをしてはならないと定めています。
本判決は、妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格処分を行った場合には、原則として雇用機会均等法に違反するものと判示しました。また、例外的に違反に当たらない場合として、

  • 当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき、
  • 業務上の必要性から支障がある場合であって,その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして,上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するとき、

としています。

本判決を受けて、厚生労働省は、妊娠・出産、育児休業等を理由とする不利益取扱いに関する解釈通達を改正し、妊娠・出産、育児休業等を「契機」とする不利益取扱いが、原則として違法と解されることを明確化しました(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000088308.html)。

妊娠・出産等を理由とする不利益な取扱い

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