事案の概要
- 本件土地は、平成18年9月当時、被上告会社X1、被上告人X2及びAが所有しており、その共有持分は、X1が72分の30、X2が72分の39、Aが72分の3であった。
- Aは、平成18年9月に死亡したが、その遺産分割は未了であり、Aが有していた上記共有持分(以下「本件持分」という。)は、Aの夫である被上告人X2並びにAとX2との間の長男である被上告人X3、長女である上告人Y1及び二男である上告人Y2の4名による遺産共有の状態にある。
- X1は、X3が代表者を務める会社である。
- 本件土地は地積約240㎡の宅地であり、本件土地上にはX1及びX2が所有する建物が存在する上、本件持分に相当する面積は約10㎡にすぎず、本件土地を現物で分割することは不可能である。
- Xらは、本件土地上にマンションを新築することを計画しているが、Yらとの間で、本件土地の分割に関する協議が調わないため、本件訴えを提起した。
- Xらは、本件土地の分割方法として、本件持分をX1が取得し、X1がAの共同相続人らに対し本件持分の価格の賠償として466万4660円を支払うという全面的価格賠償の方法による分割を希望している。X1は、その支払能力を有している。
一審は、「原告ら主張の方法では、各相続人に賠償金が確定的に支払われてしまい、賠償金が遺産分割の対象として確保されず、共同相続人の有する遺産分割上の権利を害することになってしまうし、現時点では、他に賠償金を遺産分割の対象として確保する方法が存在しないのであるから、全面的価格賠償の方法による共有物分割が許される特段の事情があるということはできない。」と判示し、競売による分割を命じました。
これに対して、原審は、全面的価格賠償による分割方法が採用された場合には、価格賠償による価格が共同相続人の共有とされた上で、その後に他のAの遺産とともに遺産分割に供されることになるから、全面的価格賠償による分割方法によっても共同相続人の遺産分割に関する利益は保護されていると理由を示し、「全面的価格賠償の方法による分割が許容される特段の事情が存している」として、(1) 本件土地について、X1の持分を72分の33、X2の持分を72分の39の割合による共有とし、(2) X1に対し、X2、X3及びYらに466万4660円を支払うことを命じました。
判決内容(抜粋)
- 最高裁平成25年11月29日第二小法廷判決
- (1) 共有物について,遺産分割前の遺産共有の状態にある共有持分(以下「遺産共有持分」といい,これを有する者を「遺産共有持分権者」という。)と他の共有持分とが併存する場合,共有者(遺産共有持分権者を含む。)が遺産共有持分と他の共有持分との間の共有関係の解消を求める方法として裁判上採るべき手続は民法258条に基づく共有物分割訴訟であり,共有物分割の判決によって遺産共有持分権者に分与された財産は遺産分割の対象となり,この財産の共有関係の解消については同法907条に基づく遺産分割によるべきものと解するのが相当である(最高裁昭和47年(オ)第121号同50年11月7日第二小法廷判決・民集29巻10号1525頁参照)。
そうすると,遺産共有持分と他の共有持分とが併存する共有物について,遺産共有持分を他の共有持分を有する者に取得させ,その者に遺産共有持分の価格を賠償させる方法による分割の判決がされた場合には,遺産共有持分権者に支払われる賠償金は,遺産分割によりその帰属が確定されるべきものであるから,賠償金の支払を受けた遺産共有持分権者は,これをその時点で確定的に取得するものではなく,遺産分割がされるまでの間これを保管する義務を負うというべきである。
そして,民法258条に基づく共有物分割訴訟は,その本質において非訟事件であって,法は,裁判所の適切な裁量権の行使により,共有者間の公平を保ちつつ,当該共有物の性質や共有状態の実情に適合した妥当な分割が実現されることを期したものと考えられることに照らすと,裁判所は,遺産共有持分を他の共有持分を有する者に取得させ,その者に遺産共有持分の価格を賠償させてその賠償金を遺産分割の対象とする価格賠償の方法による分割の判決をする場合には,その判決において,各遺産共有持分権者において遺産分割がされるまで保管すべき賠償金の範囲を定めた上で,遺産共有持分を取得する者に対し,各遺産共有持分権者にその保管すべき範囲に応じた額の賠償金を支払うことを命ずることができるものと解するのが相当である。
(2) 原審は,上記と同旨の見解に立って,本件土地の分割方法として,本件持分を被上告会社に取得させ,被上告会社に本件持分の価格を賠償させてその賠償金を遺産分割の対象とする全面的価格賠償の方法を採用したものと解することができ,その判断は是認することができる。もっとも,原判決中賠償金の支払を命ずる主文は,「被上告会社は,被上告人X2,被上告人X3及び上告人らに対し,466万4660円を支払え。」というものであって,被上告会社に対し,Aの共同相続人ら4名に466万4660円の4分の1ずつの額の支払を命ずるものと解するほかはない。原審は,理由中でAの共同相続人らに支払われる賠償金が遺産分割の対象となる旨を説示するものの,各相続人がこれをその時点で確定的に取得するものではなく,遺産分割がされるまでの間これを保管する義務を負うことを判決中に明記していない。また,Aの共同相続人らの法定相続分によるのではなく,これとは異なる上記のような割合での賠償金の支払を命ずることを相当とする根拠についても何ら説示していない。しかしながら,原審は,共同相続人間の関係,紛争の実情等に鑑み,Aの遺産分割がされるまでの間,対立する当事者の双方に単純に平等の割合で賠償金の保管をさせておくのが相当であるとの考慮に基づき,その趣旨で被上告会社にその割合に従った賠償金の支払を命じたものと解し得ないこともないのであり,結局,原審の判断にその裁量の範囲を逸脱した違法があるとまではいえない。
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前提知識と簡単な解説
共同相続の効力について
相続は、被相続人の死亡によって開始し(民法882条)、相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継し(民法896条本文)、相続人が数人あるときは、相続財産は、共同相続人の共有に属し(民法898条1項)、各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します(民法899条)。この「共有」は、民法249条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではないと解されており(最高裁昭和30年5月31日第三小法廷判決)、「遺産共有」と呼ばれています。
遺産共有状態を解消するための手続
各共同相続人は、遺産共有を解消するために、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができ(民法907条1項)、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、遺産の分割を家庭裁判所に請求することができます(民法907条2項本文)。
遺産相続により相続人の共有となった財産の分割(共有物の全部が相続財産に属する場合)について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が審判によってこれを定めるべきものであり、共有物分割訴訟によることは許されないと解されています(最高裁昭和62年9月4日第三小法廷判決)。
遺産共有状態にあったが、相続人の一人が持分権を第三者に譲渡した場合、当該持分を譲り受けた第三者がこの共同所有関係の解消を求める方法として裁判上とるべき手続は、民法907条に基づく遺産分割審判ではなく、民法258条に基づく共有物分割訴訟であると解されています(最高裁昭和50年11月7日第二小法廷判決)。
本件事件では、X1についてはもともと通常の共有持分を有していたこと、X2については通常の共有持分と遺産共有持分を有していること、X3については遺産共有持分のみを有していることから、Xらが共有物分割訴訟を提起することが許されるのかどうかが問題となります。
本判決の判断の内容
- 共有者が遺産共有持分と他の共有持分との間の共有関係の解消を求める手続は、民法258条に基づく共有物分割訴訟である、
- 遺産共有持分を他の共有持分を有する者に取得させ、その者に遺産共有持分の価格を賠償させる方法による分割の判決がされた場合、賠償金の支払を受けた遺産共有持分権者は、遺産分割がされるまでの間保管する義務を負う、
- 各共有持分権者において遺産分割がされるまで保管すべき賠償金の範囲を定めた上で、遺産共有持分を取得する者に対し、各遺産共有持分権者にその保管すべき範囲に応じた賠償金を支払うことを命じることができる、
と判示しました。
追記(令和3年民法・不動産登記法改正について)
事案によっては、共有物分割の中で、相続人間の分割を実施した方が、当該共有物に関する帰属が迅速に定まり、相続人にとっても便宜であるケースもあると考えられたことから、令和3年民法改正では、相続開始時から10年を経過したときは、裁判所は相続財産に属する共有物の持分について民法258条の規定による共有物分割をすることができるとの規定が新設されました(改正後民法258条の2第2項本文)。