本判決の内容(抜粋)
- 最高裁昭和41年12月23日第二小法廷判決
一般に履行不能を生ぜしめたと同一の原因によって、債務者が履行の目的物の代償と考えられる利益を取得した場合には、公平の観念にもとづき、債権者において債務者に対し、右履行不能により債権者が蒙りたる損害の限度において、その利益の償還を請求する権利を認めるのが相当てあり、民法五三六条二項但書の規定は、この法理のあらわれである(昭和二年二月一五日大審院判決、民集六巻二三六頁参照)。
前提知識と簡単な解説
履行不能の効果
債務者の責に帰すべき事由によって履行の全部が不能となったときは、本来の給付を目的とする請求権は消滅し、填補賠償請求権が成立します(平成29年改正前民法415条後段。以下、民法の規定については、特に記載のない限り、平成29年前のものを指します。)。また、契約から生じた債務の場合には、契約解除権が発生します(民法543条)これに対して、債務者の責に帰することができない事由によって履行の全部が不能となったときは、債務者は債務から免れ、責任を負うことはありません。双務契約の場合に、他方の債務への影響については、危険負担の問題(民法534条、民法536条)となります。
代償請求権について
履行不能となった場合において、履行不能を生ぜしめたのと同一の原因によって、債務者が履行の目的物の代償と考えられる利益を取得したときに、債権者から債務者に対して利益の償還をする権利を認めるべきかという問題について、日本の民法は別段の規定を置いていませんが、ドイツ民法は明文をもっていわゆる代償請求権を規定していました。学説上は、ドイツ民法の規定を参考として、代償請求権の成立を肯定する見解が通説となっていました(於保不二雄『債権総論(新版)』)。
本判決は、判例において初めて代償請求権を認めたものです。
本件は、返還(又は引渡)義務の目的物である建物が焼失し、債務者が焼失による保険金を受け取っていたという事案であり、本判決は、当該保険金についての代償請求権を認めました。なお、原審の判決によれば、建物の焼失の原因となった火災は、原因不明の出火によるものであり、債務者の責に帰すべからざる事由により履行不能になったものであると認定されています。