本判決の内容(抜粋)
- 最高裁平成11年11月9日第三小法廷判決
免責決定の効力を受ける債権は、債権者において訴えをもって履行を請求しその強制的実現を図ることができなくなり、右債権については、もはや民法一六六条一項に定める「権利ヲ行使スルコトヲ得ル時」を起算点とする消滅時効の進行を観念することができないというべきであるから、破産者が免責決定を受けた場合には、右免責決定の効力の及ぶ債務の保証人は、その債権についての消滅時効を援用することはできないと解するのが相当である。
前提知識と簡単な解説
以下の解説は、特に記載のない限り、本件当時に適用される法令の規定に従っています。消滅時効と時効の援用権者
債権の時効期間は10年であり(民法167条)、権利を行使することができる時から時効が進行するとされています(民法166条1項)。時効は、時効によって直接に利益を受ける「当事者」が援用することができ(民法145条)、この援用権者には保証人や連帯保証人も含まれます。したがって、保証人は、主債務について消滅時効が完成した場合には、主たる債務の消滅時効の援用をすることができます。
主たる債務の時効中断の効力
主たる債務者に対する履行の請求その他時効の中断は、保証人に対してもその効力を生じるものとされています(民法457条1項)。破産免責の効力
免責を得た破産者は、破産手続による配当を除いて、破産債権者に対する債務の全部についてその責任を免れるものとされています(破産法366条ノ12)。責任を免れることの解釈として、債務そのものが消滅するという見解もありますが、通説は、法律的強制が認められない、いわゆる自然債務として存続すると考えています(我妻榮『新訂債権総論』)。また、保証や担保との関係において、免責は、破産債権者が破産者の保証人等に対して有する権利や破産債権者のために供した担保には、影響を及ぼさないとされています(破産法366条ノ13)。
本判決の位置付け
本件では、主債務者が免責決定を受けた場合に、保証人がその主債務についての消滅時効を援用することができるかどうかが問題となりました。この点について、本判決は、「免責決定の効力を受ける債権は、債権者において訴えをもって履行を請求しその強制的実現を図ることができなくなり、右債権については、もはや民法一六六条一項に定める「権利ヲ行使スルコトヲ得ル時」を起算点とする消滅時効の進行を観念することができない」として、「破産者が免責決定を受けた場合には、右免責決定の効力の及ぶ債務の保証人は、その債権についての消滅時効を援用することはできない」と判示しました。