民法第1044条
  1. 贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前の日より前にしたものについても、同様とする。
  2. 第904条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。
  3. 相続人に対する贈与についての第1項の規定の適用については、同項中「1年」とあるのは「10年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。
平成30年改正前民法第1030条
贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前の日より前にしたものについても、同様とする。

条文の趣旨と解説

相続人以外の第三者に対する贈与(本条1項)

遺留分を算定するための財産の価額に算入される贈与(1043条1項)は、1年以内のものに限られます(本条1項前段)。もっとも、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年以前にされた贈与であっても、その価額を算入することとされています(本条1項後段)。

相続人に対する贈与(本条3項)

平成30年民法(相続関係)等改正により新設された規定です。
改正前民法下における判例は、「民法903条1項の定める相続人に対する贈与は、すべて民法1044条、903条の規定により遺留分算定の基礎となる財産に含まれる」(最高裁平成10年3月24日第三小法廷判決)とし、相続人に対する贈与については、その時期を問わず、原則として遺留分算定の基礎となる財産の価額に算入されるとしていました。
しかし、被相続人が相続開始よりも相当以前にされた贈与の存在によって、受遺者又は受贈者が受ける減殺の範囲が大きく変わることになるところ、第三者である受遺者又は受贈者は、相続人に対する古い贈与の存在を知り得ないのが通常であることから、受遺者又は受贈者に不測の損害を与え、法的安定性を害するおそれがあるとの指摘がありました(『民法(相続関係)等の改正に関する中間試案の補足説明』)。
そこで、改正民法1044条3項は、相続人に対する贈与は、相続開始前の10年間にしたものに限り、その価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の額に限る。)を算入することとしています。

贈与についての評価方法(本条2項)

受贈者の行為によって、贈与の目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があった場合には、相続開始時のときにおいて、贈与時の状態のまま存在するものとみなし、価額を算定することとなります(本条2項において準用する904条)。

条文の位置付け