契約のイメージ

フリーランスの方が企業から仕事を受注するときに、署名押印した「契約書」を交わすことがあります。ところが、契約書は馴染みのない文章で書かれていることが多く、すべてに目を通して、ひとつひとつ検討することは難しいのではないでしょうか。

今回のコラムでは、フリーランスの方が結ぶ契約書のなかで、最低限、チェックした方がよいと思われる項目をご紹介いたします。

もっとも、フリーランスの方が請け負う仕事といっても、ホームページやアプリの制作、デザイン、ライティング、時間制のレッスンやコンサルティングなど、仕事の種類や内容にはさまざまなものがあると思います。本当でしたら、すべての契約ごとに細かく解説できればよいのですが、おそらく解説記事が膨大な量となってしまいますので、このコラムでは、多くの契約に共通する一般的な事項を想定して、ご説明していきます。

(以下の見出しの星マークは、私が考える重要度を5段階で表してみました。)

1. ★★★★★ 「何をしたら」お金がもらえる?

普通、契約書では最初の方に出てくる規定です。たとえば、次のように書かれています。

第●条(契約の目的)
甲は乙に対し、下記業務を委託し、乙はこれを受託する。
(1)・・・
(2)・・・
(3)・・・

ここは後で争いになりやすいところですので、契約書を作るときに、業務の内容をきっちりと書いておくことが重要です。この部分があいまいな契約だと、後々、発注者からは「納品された成果物が想像していたのと違った」「もっと仕事をしてくれると思っていた」、受注者からすれば「納品したのに文句を言われる」「お金を払ってもらえない」「クライアントの要求が過大になってきている」などとトラブルに発展しかねません。

以下、契約の種類ごとに、簡単にアドバイスを書いていきます。

(1) 成果物を納品する仕事の場合

成果物の要件(完成品のイメージ)は、契約書の本文とは別に、別紙・仕様書などを作って具体的に書いておくことが多いです。契約書の本文と分けることで、契約書の固い文言や体裁に縛られず、現場の要望をふまえて柔軟に定めやすくなります。お互いの認識を一致させるため、なるべく詳細かつ具体的に記載しましょう。

また、納品後にクライアントの要望による修正に応じる予定がある場合には、その回数や範囲なども明記しておくとよいと思います。

(2) サービスを提供する仕事(コンサルティングなど)の場合

サービスの内容と範囲を具体的に定めます。サービス内容が多岐にわたる場合には、上記(1)の場合と同様、別紙を作成してもよいでしょう。

また、サービスの内容とともに、報酬も明確にしておくことが重要です。
報酬の計算方法としては、たとえば、

  • 月毎に定額を支払ってもらう方法、
  • あらかじめ合意した目標を達成した場合に、一定額の報酬を支払ってもらう方法、
  • 相談や作業時間に、一定の時間単価をかけた金額を支払ってもらう方法、

などが考えられます。

(3) ご参考として、弁護士の委任契約の場合

ちなみに、私(弁護士)がご依頼を受ける場合、委任の範囲を明確にするために以下のような契約書を作成しています。

甲は乙に対し、以下の事件処理等を委任し、乙はこれを受任した。
☑書類作成、□交渉、□訴訟、・・・”

あえて空欄のチェックボックスを作ることで、今回は「書類作成」だけをお引き受けし、委任事項に「訴訟」や「交渉」は含まれないことを明らかにして、委任の範囲を明確にしているわけです。

2. ★★★☆☆ 契約の期間はいつまで続く?

長期間の契約となる場合には、契約期間がいつまでか、自動更新されるのか、中途解約ができるのかどうかはチェックしておいた方がよいでしょう。

自動更新あり・中途解約ありの場合、たとえば以下のような定め方が考えられます。

第●条(契約期間)
1 本契約の契約期間は、●年●月●日より●年●月●日までの1年間とする。
2 前項の契約期間は、甲または乙が、期間満了の●日前までに相手方に対して書面にて更新しない旨の通知をした場合を除き、さらに1年間更新され、以後も同様とする。
3 前2項の契約期間中であっても、乙は、甲に対し、●日前までに書面をもって通知することにより、本契約を解約することができる。

3. ★★★★☆ 著作権は誰のもの?改変をされたら?

当然のことですが、デザインに関する成果物を納品する場合には、著作権、著作者人格権の定めも重要になりますので、ご自身の意向に沿っているかどうか確認しておきましょう。

また、デザインに限らず、コンサルティング契約であっても、レポート等を作成することが業務の内容となっている場合には、当該レポートの取扱いも問題となりますので、注意が必要です。

4. ★★★★☆ 自分が負うことになる義務を確認しよう

仕事を請け負うフリーランスの方にも、以下のような義務が課される場合がありますので、あらかじめ確認しておいてください。

(1) 秘密保持義務

たとえばコンサルティング契約であれば、クライアントの経営や営業に関する情報を知ることが多いため、このような秘密情報については、「第三者に対して開示又は漏洩してはならない」などと規定されることがあります。

秘密保持義務が規定されている場合、秘密情報の範囲(どのような情報が開示してはいけない秘密に当たるのか)を確認しておくことが望ましいでしょう。

また、契約をした後は、SNSでの情報発信やセミナーなどでの話題提供の際、秘密保持義務に違反することのないよう細心の注意を払って下さい。

(2) 再委託の禁止

依頼を受けた仕事を、さらに第三者に再委託ことを禁止する条項です。仕事の内容によっては例外もあるかもしれませんが、多くの場合、再委託は認められていないはずです。
もし再委託を予定しているのであれば、あらかじめ契約に明記しておくことが望ましいです。

5. ★★☆☆☆ 代金の支払時期を確認しておこう

成果物や完成品を納入する契約の場合、発注者が検査を行い、代金の支払時期は、「検査に合格した日から●日以内」などと定められることがあります。成果物の内容にもよりますが、もし検査の期間が長くなりそうであれば、検査を行う期限を区切っておくことも考えられます。

6. ★☆☆☆☆ 裁判の「管轄」を知っておこう

ほとんどの契約書の最後の方に、次のような条項が規定されていると思います。

第●条(合意管轄)
本契約に関する一切の紛争については、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

この規定が意味するところは、裁判をするときには、東京地方裁判所で裁判をしなければいけませんよ、ということです。遠方にお住まいの方にとっては、裁判が大きな負担となることも想定されます。実際に裁判をする場合には、地味に重要になってくる規定です。

7. ★★★☆☆ 契約書から抜け落ちているところはない?

せっかく契約書を作るのであれば、交渉段階で担当者とした約束は、すべて契約書に記載しておくようにしましょう。そのためには、過去のメールをチェックしたり、打合せのメモを見かえしたりして、抜け落ちていることがないか点検します。

たとえば、以下のような点をチェックしてみてください。

(1) 仕事に必要な経費は誰が負担する?

多額の経費がかかることが想定される場合には、事前に担当者との間で経費の範囲について、話し合うことがあると思います。その上で、契約書で経費の範囲も明らかにしておくとよいと思います。

(2) 発注者の協力も必要な場合、その期限も定めている?

たとえば、ホームページの製作などでは、コンテンツの提供など、クライアントの協力が必要になってくる場合もあります。クライアントの協力が遅れたために、納期限までに成果物を納品できないという事態も想定できますので、スケジュールも事前に合意していた場合には、できれば契約書に明記しておくのが望ましいでしょう。

まとめ

今回のコラムでは、多くの契約に共通する一般的な事項を念頭において、ご説明してみました。そのため、実際に悩みや問題に直面している方にとっては、知りたいことが書かれていないかもしれません。
もしご自身のビジネスで抱えるお悩みや問題を解決したい場合には、弁護士など法律専門家への個別相談をご検討いただければと思います。