借地借家法第13条
  1. 借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。
  2. 前項の場合において、建物が借地権の存続期間が満了する前に借地権設定者の承諾を得ないで残存期間を超えて存続すべきものとして新たに築造されたものであるときは、裁判所は、借地権設定者の請求により、代金の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。
  3. 前二項の規定は、借地権の存続期間が満了した場合における転借地権者と借地権設定者との間について準用する。
借地法(旧法)第4条
  1. 借地権消滅ノ場合ニ於テ借地権者カ契約ノ更新ヲ請求シタルトキハ建物アル場合ニ限リ前契約ト同一ノ条件ヲ以テ更ニ借地権ヲ設定シタルモノト看做ス但シ土地所有者カ自ラ土地ヲ使用スルコトヲ必要トスル場合其ノ他正当ノ事由アル場合ニ於テ遅滞ナク異議ヲ述ヘタルトキハ此ノ限ニ在ラス
  2. 借地権者ハ契約ノ更新ナキ場合ニ於テハ時価ヲ以テ建物其ノ他借地権者カ権原ニ因リテ土地ニ附属セシメタル物ヲ買取ルヘキコトヲ請求スルコトヲ得
  3. 第5条第1項ノ規定ハ第1項ノ場合ニ之ヲ準用ス

条文の趣旨と解説

借地権者が借地権の存続期間中、建物等を建築した場合、賃貸借における賃借人は附属させた物の収去義務を負い(民法622条において準用する民法599条1項本文)、地上権者も工作物等の収去義務を負うと解されています。
しかし、建物等は、期間満了時においても、なお残存価値を有していることが多いといえます。そこで、期間満了時における建物等の残存価値の回収を借地権者に認める制度が、本条に定める建物買取請求権です。

民法上の制度との関係

民法は、地上権が消滅した時に、土地の所有者が時価相当額を提供して土地の工作物を買い取る旨を通知したときは、地上権者は、正当な理由がなければ、これを拒むことはできないと定めています(民法269条1項ただし書)。したがって、土地所有者が買い取る通知をした場合には、地上権者が投下した費用の回収が実現します。しかし、本条に基づいて土地の工作物を買い取るか否かは、土地所有者の自由に委ねられており、地上権者の投下資本の回収が保障されているわけではありません。

また、民法は、賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、民法196条第2項の規定に従い、その償還をしなければならないと定めています(民法608条2項本文)。しかし、民法608条2項本文による有益費償還請求権は、費用投下の成果が土地に付合し土地の構成部分となった場合にのみ認められることから、土地とは別の不動産として取り扱われる建物や、民法242条ただし書により所有権が留保された物件については、適用がないと考えられます(鈴木禄弥・生熊長幸『新版注釈民法(15)』)。

建物が新たに築造された場合

最初の存続期間内に建物の滅失があり、借地権者が残存期間を超えて存続すべき建物を築造した場合には、借地権設定者の承諾がなければ、存続期間は延長されません(借地借家法7条1項)。また、契約の更新後に建物の滅失があり、借地権者が残存期間を超えて存続すべき建物を築造した場合には、借地権設定者は地上権の消滅の請求又は土地の賃貸借の解約の申入れをすることができますが(借地借家法8条1項)、借地権設定者がこの権利を行使しなければ、更新後の存続期間(借地借家法4条)に従います。したがって、これらの場合には、期間の満了し、契約の更新がなければ、建物買取請求権が成立します。
しかし、新たに築造された建物について、借地権設定者が「時価で買い取る」こととなれば、借地権設定者において想定しなかった多額の代金の支払いを余儀なくされます。
そこで、建物が借地権の存続期間が満了する前に借地権設定者の承諾を得ないで残存期間を超えて存続すべきものとして新たに築造されたものであるときは、裁判所は、借地権設定者の請求により、代金の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができるものとされています(本条2項)。

転借地権者と借地権設定者との間の建物買取請求権

転借地権が設定されている場合において、借地権の存続期間が満了したときは、転借地権者は、借地権設定者に対して、建物買取請求権を行使することができます(本条3項)。

条文の位置付け