不動産の買主が、その売主の相続人に対し、売買を原因として、当該不動産について所有権移転登記を求める訴訟は、その相続人が数人いるときでも、必要的共同訴状ではない、と判示しました。
事案の概要
- 被上告人Xは、昭和18年12月30日、訴外Aから本件宅地をその地上建物と共に買い受けた。
- 訴外Aは、本件宅地の所有権移転登記をしないまま、昭和24年1月1日、死亡した。
- 訴外Aに妻子はいない。上告人Yは、訴外Aの父である。
- 原審は、XのYに対する所有権移転登記手続請求を認容した。
- Yは上告し、戸籍の上で母として記載されているB又は生母であるC(認知の届出はない)を相続人として扱うべきであると主張した。
判決文(抜粋)
- 最高裁昭和36年12月15日第二小法廷判決
- 本件は昭和一八年一二月三〇日上告人の二男Aから本件宅地をその地上建物と共に買い受けた被上告人が、同二四年一月一日右Aの死亡による相続によつて右Aの売買契約上の債務を承継した上告人に対し、右契約にもとづき本件宅地の所有権移転の登記を請求する訴訟であることは記録上あきらかである。すなわち、被上告人の本訴において請求するところは、上告人が相続によつて承継した前記Aの所有権移転登記義務の履行である。かくのごとき債務は、いわゆる不可分債務であるから、たとえ上告人主張のごとく、上告人の外に共同相続人が存在するとしても、被上告人は上告人一人に対して右登記義務の履行を請求し得るものであつて、所論のごとく必要的共同訴訟の関係に立つものではないのである。
であるから、原判決が、所論本案前の抗弁を排斥したのは結局正当であつて、上告人の外に共同相続人があるかどうかに関する原判決の判示は本件において不要の論議に過ぎず、従つて、この点に関する上告人の論旨については判断の要を見ない。
前提知識と簡単な解説
相続の効力
相続は、被相続人の死亡によって開始し(民法882条)、相続人は、相続開始の時から、被相続人の一身に専属したものを除き(民法896条ただし書)、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条本文)。
相続人が数人あるときは、相続財産は、共同相続人の共有に属し(民法898条1項)、各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します(民法899条)。この「共有」は、民法249条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではないと解されています(最高裁昭和30年5月31日第三小法廷判決)。
多数当事者の債権及び債務
数人で所有権以外の財産権を有する場合については、法令に特別の定めがあるときを除き、「準共有」として、共有に関する規定が準用されます(民法264条)。しかし、債権及び債務については、多数当事者の債権及び債務に関する民法427条以下の規定が、民法264条にいう「特別の定め」に当たると解されています。
多数当事者の債権及び債務については、民法は、原則として、各債権者又は各債務者が、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負うものとされています(民法427条)。この例外として、不可分給付について数人の債務者があるときは、不可分債務として、債権者は、その債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次に全ての債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができるとされています(民法430条において準用する民法436条。追記:平成29年民法(債権関係)改正後の条文を記載しています。)。
本判決は、相続によって承継した売買に基づく所有権移転登記義務が不可分債務(民法430条)に当たるとして、不動産の買主が、売主の相続人の一人に対して、その義務の履行を請求することができるとしました。