土地の所有者が、その所有権に基づいて、当該土地上にある建物の所有権を共同相続によって取得した者らに対して、建物の収去及び土地の明渡しを求める訴えは、「固有必要的共同訴訟ではない」と判示しました。
判決文(抜粋)
- 最高裁昭和43年3月15日第二小法廷判決
- 被上告人の被告Dに対する本訴請求が本件土地の所有権に基づいてその地上にある建物の所有者である同被告に対し建物収去土地明渡を求めるものであることは記録上明らかであるから、同被告が死亡した場合には、かりにEが同被告の相続人の一人であるとすれば、Eは当然に同被告の地位を承継し、右請求について当事者の地位を取得することは当然である。しかし、土地の所有者がその所有権に基づいて地上の建物の所有者である共同相続人を相手方とし、建物収去土地明渡を請求する訴訟は、いわゆる固有必要的共同訴訟ではないと解すべきである。けだし、右の場合、共同相続人らの義務はいわゆる不可分債務であるから、その請求において理由があるときは、同人らは土地所有者に対する関係では、各自係争物件の全部についてその侵害行為の全部を除去すべき義務を負うのであつて、土地所有者は共同相続人ら各自に対し、順次その義務の履行を訴求することができ、必ずしも全員に対して同時に訴を提起し、同時に判決を得ることを要しないからである。もし論旨のいうごとくこれを固有必要的共同訴訟であると解するならば、共同相続人の全部を共同の被告としなければ被告たる当事者適格を有しないことになるのであるが、そうだとすると、原告は、建物収去土地明渡の義務あることについて争う意思を全く有しない共同相続人をも被告としなければならないわけであり、また被告たる共同相続人のうちで訴訟進行中に原告の主張を認めるにいたつた者がある場合でも、当該被告がこれを認諾し、または原告がこれに対する訴を取り下げる等の手段に出ることができず、いたずらに無用の手続を重ねなければならないことになるのである。のみならず、相続登記のない家屋を数人の共同相続人が所有してその敷地を不法に占拠しているような場合には、その所有者が果して何びとであるかを明らかにしえないことが稀ではない。そのような場合は、その一部の者を手続に加えなかつたために、既になされた訴訟手続ないし判決が無効に帰するおそれもあるのである。以上のように、これを必要的共同訴訟と解するならば、手続上の不経済と不安定を招来するおそれなしとしないのであつて、これらの障碍を避けるためにも、これを必要的共同訴訟と解しないのが相当である。また、他面、これを通常の共同訴訟であると解したとしても、一般に、土地所有者は、共同相続人各自に対して債務名義を取得するか、あるいはその同意をえたうえでなければ、その強制執行をすることが許されないのであるから、かく解することが、直ちに、被告の権利保護に欠けるものとはいえないのである。そうであれば、本件において、所論の如く、他に同被告の承継人が存在する場合であつても、受継手続を了した者のみについて手続を進行し、その者との関係においてのみ審理判決することを妨げる理由はないから、原審の手続には、ひつきよう、所論の違法はないことに帰する。
前提知識と簡単な解説
相続の効力
相続は、被相続人の死亡によって開始し(民法882条)、相続人は、相続開始の時から、被相続人の一身に専属したものを除き(民法896条ただし書)、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条本文)。
相続人が数人あるときは、相続財産は、共同相続人の共有に属し(民法898条1項)、各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します(民法899条)。この「共有」は、民法249条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではないと解されています(最高裁昭和30年5月31日第三小法廷判決)。
多数当事者の債権及び債務
数人で所有権以外の財産権を有する場合については、法令に特別の定めがあるときを除き、準共有として、共有に関する規定が準用されます(民法264条)。しかし、債権及び債務については、多数当事者の債権及び債務に関する民法427条以下の規定が、民法264条にいう「特別の定め」に当たると解されています。
多数当事者の債権及び債務については、民法は、原則として、各債権者又は各債務者が、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負うものとされています(民法427条)。この例外として、不可分給付について数人の債務者があるときは、不可分債務として、債権者は、その債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次に全ての債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができるとされています(民法430条において準用する民法436条)。
本事案で問題となっている請求権は、所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権であることから、民法427条以下の多数当事者の債権及び債務に関する規定が当然に直接適用されるわけではないと考えられますが、本判決は、「共同相続人らの義務はいわゆる不可分債務である」と述べて、不可分債務の規律が適用されることを肯定しています。