共同相続人に対して契約上の義務の履行として所有権移転登記手続を求める訴訟が必要的共同訴訟となるか否かについて、必要的共同訴訟ではない、と判示しました。

事案の概要

  • 訴外Aは、昭和11年3月28日、訴外B及びC夫婦と養子となる縁組をした。
  • その頃、訴外Aは、実父である訴外Dから本件土地の贈与を受けた(以下「本件贈与」という。)。
  • 昭和11年4月2日、訴外Bが死亡し、訴外Aが女戸主となった。
  • Xは、昭和13年10月30日、訴外Aのもとへ入夫婚姻し、家督相続により訴外Aが有した一切の権利義務を承継した(当時の旧民法では、「女戸主カ入夫婚姻ヲ為シタルトキハ入夫ハ其家ノ戸主ト為ル」とされていた。)
  • 訴外Dは、本件贈与による所有権移転登記手続をしないまま、昭和25年1月8日、死亡した。
  • 訴外Dの相続人は、訴外Aのほか、Yらであった。
  • Xは、Yらに対して、本件土地について贈与による所有権移転登記手続を求めた。

判決文(抜粋)

最高裁昭和44年4月17日第一小法廷判決
 ところで、不動産について被相続人との間に締結された契約上の義務の履行を主張して、所有権移転登記手続を求める訴訟は、その相続人が数人いるときでも、必要的共同訴訟ではないと解するのが、当裁判所の判例(昭和三三年(オ)第五一七号・同三六年一二月一五日第二小法廷判決・民集一五巻一一号二八六五頁、昭和三九年(オ)第一四〇号・同三九年七月一六日第一小法廷判決・裁判集七四号六五九頁、昭和三七年(オ)第一四三七号・同三九年七月二八日第三小法廷判決・裁判集七四号七五五頁)とするところであり、これを今なお変更する必要がないと思料するから、本件のように、贈与を理由として、贈与者の相続人に対し所有権移転登記手続を求める訴訟は、その相続人が数人いるときでも、必要的共同訴訟ではないと解せられ、したがつて論旨の失当なことは前記説述したところから明らかであり、所論は採用できない。

前提知識と簡単な解説

以下は、本判決がされた時点ではなく、現在の法律に基づいて解説しています。

相続の効力

相続は、被相続人の死亡によって開始し(民法882条)、相続人は、相続開始の時から、被相続人の一身に専属したものを除き(民法896条ただし書)、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条本文)。
相続人が数人あるときは、相続財産は、共同相続人の共有に属し(民法898条1項)、各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します(民法899条)。この「共有」は、民法249条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではないと解されています(最高裁昭和30年5月31日第三小法廷判決)。

多数当事者の債権及び債務

数人で所有権以外の財産権を有する場合については、法令に特別の定めがあるときを除き、準共有として、共有に関する規定が準用されます(民法264条)。しかし、債権及び債務については、多数当事者の債権及び債務に関する民法427条以下の規定が、民法264条にいう「特別の定め」に当たると解されています。
多数当事者の債権及び債務については、民法は、原則として、各債権者又は各債務者が、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負うものとされています(民法427条)。この例外として、不可分給付について数人の債務者があるときは、不可分債務として、債権者は、その債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次に全ての債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができるとされています(民法430条において準用する民法436条)。

本判決が引用している判例

本判決で引用する最高裁昭和36年12月15日第二小法廷判決は、不動産の買主が、その売主の相続人に対し、売買を原因として、当該不動産について所有権移転登記を求める訴訟について、その相続人が数人いるときでも、相続によって承継した売買に基づく所有権移転登記義務が不可分債務に当たるとして、「必要的共同訴訟の関係に立つものではない」と判示していました。