事案の概要
- 被上告人Xは、夫である被相続人Dがした、不動産の一切をXに相続させる旨の遺言によって、当該不動産ないしその共有持分権を取得した。
- Dの法定相続人の一人であるEの債権者である上告人Yらは、Eに代位してEが法定相続分により上記不動産及び共有持分権を相続した旨の登記を経由した上、Eの持分に対する仮差押え及び強制競売を申し立て、これに対する仮差押え及び差押えがされた。
- Xは、この仮差押えの執行及び強制執行の排除を求めて第三者異議訴訟を提起した。
本件判決の内容(抜粋)
- 最高裁平成14年6月10日第二小法廷判決
- 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は,特段の事情のない限り,何らの行為を要せずに,被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される(最高裁平成元年(オ)第174号同3年4月19日第二小法廷判決・民集45巻4号477頁参照)。このように,「相続させる」趣旨の遺言による権利の移転は,法定相続分又は指定相続分の相続の場合と本質において異なるところはない。そして,法定相続分又は指定相続分の相続による不動産の権利の取得については,登記なくしてその権利を第三者に対抗することができる(最高裁昭和35年(オ)第1197号同38年2月22日第二小法廷判決・民集17巻1号235頁,最高裁平成元年(オ)第714号同5年7月19日第二小法廷判決・裁判集民事169号243頁参照)。したがって,本件において,被上告人は,本件遺言によって取得した不動産又は共有持分権を,登記なくして上告人らに対抗することができる。
前提知識と簡単な解説
共同相続の効力について
相続は、被相続人の死亡によって開始し(民法882条)、相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継し(民法896条本文)、相続人が数人あるときは、相続財産は、共同相続人の共有に属し(民法898条1項)、各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します(民法899条)。
遺言の効力
被相続人は、遺言で、共同相続人の相続分を指定すること(民法902条)、遺産の分割の方法を定めること(民法908条)、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分すること(民法964条)ができます。
遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生じます(民法985条1項)。
「相続させる」趣旨の遺言の解釈
特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、特段の事情がない限り、遺産の分割の方法を定めた遺言であり、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時に直ちに遺産が相続人に相続により承継されます(最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決)。
相続による権利の承継と対抗要件の要否
共同相続した不動産につき相続人の一人が勝手に単独所有権取得の登記をし、その者から第三取得者が移転登記を受けた場合、他の共同相続人は、第三取得者に対し、自己の持分を登記なくして対抗できます(最高裁昭和38年2月22日第二小法廷判決)。
遺言により法定相続分を下回る相続分を指定された共同相続人が、法定相続分に応じた相続登記がされたことを利用して持分を譲渡しても、第三取得者が取得する持分は指定相続分に応じた持分にとどまるとされています(最高裁平成5年7月19日第二小法廷判決)。
本判決の位置付け
「相続させる」遺言によって不動産を取得した相続人が、登記なくしてその権利を第三者に対抗することができるか否かという問題について、本判決は、登記なくして第三者に対抗できるとの判断を示しました。
追記(平成30年相続法改正)
本判決に対しては、相続分の指定又は遺産分割方法の指定により権利を承継した相続人は、いつまでも登記なくして第三者に所有権を対抗することができ、法定相続分による権利の承継があったと信頼した第三者において不測の損害を被るおそれがあるという問題点が指摘されていました(『民法(相続関係)等の改正に関する中間試案の補足説明』)。
そこで、平成30年民法(相続関係)改正により、民法899条の2が創設されました。
同条1項では「相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない」と規定されています。