民法第472条
  1. 免責的債務引受の引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れる。
  2. 免責的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。この場合において、免責的債務引受は、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、その効力を生ずる。
  3. 免責的債務引受は、債務者と引受人となる者が契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもすることができる。

条文の趣旨と解説

平成29年民法(債権関係)改正により新設された規定です。
改正前民法には、債務引受に関する規定がありませんでしたが、判例・学説ともにこれを認めていました。債務引受には、債務者と引受人とが併存して債務を負う併存的債務引受と、引受人のみが債務を負い債務者が免責される免責的債務引受があると考えられていました。
本条は、免責的債務引受について、要件と基本的な効果についての規定を設けています。

免責的債務引受がされると、引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れます(本条1項)。

免責的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができます(本条2項前段)。
なお、改正前民法下においては、債務者の意思に反しないことを要するかという論点に関して、見解の対立がありました。判例は、債務者の意思に反しないことを要件としてしていましたが(大審院大正10年5月9日判決)、債権者による債務免除があったと考えれば、債務者の意思を問題とする必要はないという見解も主張されていました。
この論点について、改正民法は、債務者の意思に反しないことは要件ではなく、債権者と引受人との契約のみによって,免責的債務引受が成立することを明らかにしています。
もっとも、債務者が一切関与しないまま債権債務関係から離脱すると債務者に予期しない効果が発生するおそれがあることから、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、免責的債務引受の効力を生ずるものとされています(本条2項後段)。

免責的債務引受は、債務者と引受人との合意によってもすることができます。もっとも,債権者の関与なく債務者が交替することを認めると、債権者の利益を害するため、この場合には、債権者の承諾がなければ免責的債務引受の効力を生じないとされています(本条3項)。この規定は、改正前民法下における一般的理解を明文化したものです。

条文の位置付け