民法第915条
  1. 相続人は、自己ために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
  2. 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

条文の趣旨と解説

民法は、相続開始と同時に相続の効力が発生するとしつつ(896条本文)、相続人に対しては、単純承認、限定承認又は放棄の選択権を認めています(本条1項本文)。

熟慮期間

相続人には、相続の承認又は放棄を選択するための熟慮期間として、3箇月の期間が定められています。3箇月で足りない場合には、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において期間を伸長することができます(本条1項ただし書)。

熟慮期間の起算点は「自己のために相続の開始があったことを知った時」とされているところ(本条1項本文)、この規定は、判例によれば、相続人が相続開始の原因たる事実の発生を知り、かつそのために自己が相続人となったことを覚知した時を指すと解されています(大審院大正15年8月3日決定)。
もっとも、その後の最高裁判例は、原則として上記事実を知った時から熟慮期間を起算すべきとしながらも、上記「各事実を知った時から三か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があつて、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、相続人が前記の各事実を知った時から熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当でないものというべきであり、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である」と判示しています(最高裁昭和59年4月27日第二小法廷判決)。

条文の位置付け