まるでオペラを観劇しているような華やかで優雅な小説でした。

前半のワーテルローの戦いの描写は、臨場感はあるものの、読んでいる最中はやや冗長にも思えました。しかし、物語の後半に差し掛かってからの、諸方の人物を巻き込んでの社交界での駆け引きは圧巻でした。物語の世界にのめり込み、読後は充実した満足感に包まれました。

物語のあらすじを紹介することは控えます。というのも、物語の登場人物が複雑で多岐にわたり、しかも主要な人物が結婚したり役職が変わったりして、呼称すら変わっていく。この人間関係を整理することはなかなか容易ではありません。それに、仮に要約ができたとしても、あらすじを読んだところで、あまり面白さは伝わらない作品だと思うからです。

愛される人柄について

主人公のファブリス・デル・ドンゴの周りには、献身的に彼を助ける人が集まってきます。ファブリスは自然児のように本能に従い行動しながらも、周りの人を広く巻き込み、彼らの人生すら変えていきます。

この本の特徴として私が感じたのは、ファブリスの心理描写や台詞の部分が、物語の全体からみると少ないことです。周囲の人の言動をもって、ファブリスの魅力が描かれていく、そんな構成になっているような気がしました。

ファブリスの、いったい何がこれほど周りの人を惹き付けるのか。
私は、二つあると思いました。

(1) 影響力のある人に気に入られる

叔母であるジーナ・デル・ドンゴに愛されたことがファブリスの運命を決定づけました。
ジーナは、自身の智略にも恵まれながら、貴族であるピエトラネーラ伯爵、サンセヴェリナ侯爵、モスカ伯爵との結婚を繰り返し、政治的な影響力すら握っていました。
パルムの僧院という小説は、ジーナが主役といっても過言ではないほど、ジーナが物語の中心に据えられています。このジーナに好かれたことで、ファブリスの周りには多くの人が集まってきたのではないかと思います。影響力のある人の言葉は、本当に強い。

これは現代にも通じることだと思うのですが、影響力のある人に好かれるということは、仕事をしていく上でも重要なことだと思っています。

(2) 敵をつくることをおそれず、夢や理想に向けて行動する

物語のなかでファブリスの心理描写や台詞は少ないのですが、ひとつ言えることは、ファブリスは自分の夢や理想に向かっては、ひたすらに追い求めていたということです。恋愛というものを知りたいという願望があり、自分の願望に忠実に行動します。
自分の理想を追い求めるということは容易ではありません。ファブリスは自分の理想を追い求める過程で、どんどん敵もつくっていき、窮地に立たされもします。
人に強く愛されるということは、同時に、自分を好かない人間も現れていくということ。嫌われることをおそれずに行動する、これがファブリスの魅力のひとつではないかと思いました。

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もう10年以上も前に読んだものですが、『赤と黒』のストーリーが思い起こされてきて、『パルムの僧院』と主題がつながっていくように感じました。同じ作者の作品を重ねて読むことの醍醐味ですね。