本判決の内容(抜粋)

最高裁昭和62年9月4日第三小法廷判決
 遺産相続により相続人の共有となった財産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家事審判法の定めるところに従い、家庭裁判所が審判によってこれを定めるべきものであり、通常裁判所が判決手続で判定すべきものではないと解するのが相当である。したがって、これと同趣旨の見解のもとに、上告人の本件共有物分割請求の訴えを不適法として却下すべきものとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はなく、所論引用の判例に抵触するものではない。

前提知識と簡単な解説

共同相続の効力について

相続は、被相続人の死亡によって開始し(民法882条)、相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継し(民法896条本文)、相続人が数人あるときは、相続財産は、共同相続人の共有に属し(民法898条1項)、各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します(民法899条)。この「共有」は、民法249条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではないと解されています(最高裁昭和30年5月31日第三小法廷判決)。

遺産分割について

各共同相続人は、遺産の共有状態を解消するために、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができ(民法907条1項)、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、遺産の分割を家庭裁判所に請求することができます(民法907条2項本文)。
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生じますが(民法909条本文)、第三者の権利を害することはできません(民法909条ただし書)。

共有物分割について

各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができ(民法256条1項本文)、共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができます(民法258条1項)。

遺産分割審判と共有物分割訴訟について

遺産分割審判と共有物分割訴訟では、それぞれ分割の対象、基準及び方法が異なります。
この相違については、共同相続人の一部から遺産を構成する特定不動産の共有持分権を譲り受けた第三者がとるべき裁判手続が争点となった最高裁昭和50年11月7日第二小法廷判決において詳細に述べられています。

本判決の位置付け

本判決は、遺産相続により相続人の共有となった財産の分割については、共有物分割訴訟によることは許されず、遺産分割審判によるべきことを示しました。

追記(令和3年民法・不動産登記法改正について)

本件のように、共有物の全部が相続財産に属する場合においては、共有物分割訴訟による分割ができないことが明文化されました(民法258条の2第1項)。