民法第469条
  1. 債務者は、対抗要件具備時より前に取得した譲渡人に対する債権による相殺をもって譲受人に対抗することができる。
  2. 債務者が対抗要件具備時より後に取得した譲渡人に対する債権であっても、その債権が次に掲げるものであるときは、前項と同様とする。ただし、債務者が対抗要件具備時より後に他人の債権を取得したときは、この限りでない。
    1. 対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権
    2. 前号に掲げるもののほか、譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権
  3. 第466条第4項の場合における前2項の規定の適用については、これらの規定中「対抗要件具備時」とあるのは、「第466条第4項の相当の期間を経過した時」とし、第466条の3の場合におけるこれらの規定の適用については、これらの規定中「対抗要件具備時」とあるのは、「第466条の3の規定により同条の譲受人から供託の請求を受けた時」とする。

条文の趣旨と解説

平成29年民法(債権関係)改正により新設された規定です。
債務者は、対抗要件が具備されるまでに、譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができ(468条1項)、対抗できる事由には相殺の抗弁も含まれます。
しかし、改正前民法下においては、債権譲渡の対抗要件が具備された時点で相殺適状が存在したことを要するか、自働債権の弁済期が受働債権の弁済期よりも先に到来することを要するか等、相殺の抗弁を対抗するための要件が明確には定められていませんでした。
そこで、改正民法は、債務者が譲受人に対して主張することができる相殺の抗弁の範囲について、ルールの明確化を図るため、新たに規定を設けました。

対抗要件具備時までに取得した債権

対抗要件具備時までに債務者が債権を取得していれば、対抗要件具備時に相殺適状にある必要はなく、自働債権と受働債権の弁済期の先後を問わず、相殺の抗弁を対抗することができます(本条1項)。

対抗要件具備後に取得した債権

対抗要件具備時より後に債務者が債権を取得した場合であっても、対抗要件具備時より前の発生原因に基づいて生じた債権を反対債権とする相殺については、相殺の期待が保護に値すると考えられることから、当該発生原因に基づき発生した債権を自働債権とする相殺の抗弁を対抗することができるものとされています(本条2項1号)。
「対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権」の具体例としては、対抗要件具備時よりも前に締結されていた賃貸借契約に基づき対抗要件具備時より後に発生した賃料債権や、対抗要件具備時よりも前に主債務者の委託に基づいて保証をしていた場合において対抗要件具備時より後に発生した事後求償権などが挙げられます(筒井健夫・村松秀樹『一問一答 民法(債権関係)改正』)

また、将来発生する債権が譲渡された場合については、譲渡後も譲渡人と債務者との間における取引が継続することが想定され、相殺の期待を保護する必要性が高いと考えられることから、「譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権」を自働債権とする相殺の抗弁を対抗することができるものとされています(本条2項2号)。
この具体例としては、将来発生する売買代金債権が譲渡され、対抗要件が具備された後に、当該売買代金債権を発生させる売買契約が締結された場合において、売買目的物の契約不適合を理由として損害賠償請求権が発生した場合などが挙げられます(筒井健夫・村松秀樹『一問一答 民法(債権関係)改正』)。

条文の位置付け