民法第906条の2
  1. 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
  2. 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。

条文の趣旨と解説

平成30年民法(相続関係)改正により新設された規定です。
遺産共有状態にある相続財産につき、その共有関係の解消は、遺産分割の手続によることが想定されています。しかし、遺産分割前に共同相続人が共有持分を処分することも民法上禁じられているわけではないところ、遺産の一部が処分された場合に、どのように処理すべきかにつき、改正前民法においては明文の規定がありませんでした。
遺産分割は、遺産分割時に存在する財産を分配する手続であるという考え方からすれば、遺産分割前に、共同相続人の一人によって遺産の一部の処分が行われた場合、当該処分された財産は遺産分割の対象には含まれないと考えられますが、そうすると各相続人の最終的な取得額に不公平が生じることが指摘されていました。
そこで、民法改正においては、相続人間の不公平を是正する方策が設けられることとなりました(『中間試案後に追加された民法(相続関係)等の改正に関する試案(追加試案)の補足説明』)。

まず改正前民法における実務においても、相続人全員の同意があれば、処分された財産が遺産の分割時に存在するものとして、遺産分割の対象となるものと考えられていました。改正民法は、本条1項において、この実務の考え方を明文化しています(部会資料24-3)。

その上で、遺産分割前に、共同相続人の一人が他の共同相続人の同意を得ずに遺産に属する財産の処分を行った場合、処分を行った共同相続人が利得を多く得ることを是正する必要があることから、本条1項の同意を処分を行った共同相続人については、本条1項の同意を得ることを要せず、他の共同相続人の同意があれば、当該処分された財産についても、遺産分割の対象に含めることができるものとされています(本条2項)。

条文の位置付け