民法第909条の2
各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の次条を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

条文の趣旨と解説

平成30年民法(相続関係)等改正により新設された規定です。
最高裁平成28年12月19日大法廷決定は、従前の判例を変更し、預貯金債権が遺産分割の対象に含まれるとの判断を示し、預貯金債権については、遺産分割までの間は、共同相続人全員が共同して行使しなければならないこととなりました。
しかし、共同相続人において被相続人が負っていた債務の弁済をするなどの資金需要により、預貯金を遺産分割前に払い戻す必要が生じる場合もあります。
そこで、改正民法では、一定の条件を設けた上で、裁判所の判断を経ることなく、金融機関の窓口において預貯金の払戻しを受けることができる制度が設けられることになりました(『中間試案後に追加された民法(相続関係)等の改正に関する試案(追加試案)の補足説明』)。

単独で払戻しを受けることができる額

相続開始時の預貯金債権の額(各口座ごと)の3分の1に当該共同相続人の法定相続分を乗じた額が、単独で払戻しを受けることができる額となります。ただし、同一の金融機関に対する権利行使は、150万円が限度となります(平成30年法務省令第29号)。

条文の位置付け