民法第262条の2
  1. 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下「この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させる。
  2. 前項の請求があった持分に係る不動産について第258条第1項の規定による請求又は遺産の分割の請求があり、かつ、所在等不明共有者以外の共有者が前項の請求を受けた裁判所に同行の裁判をすることについて異議がある旨の届出をしたときは、裁判所は、同項の裁判をすることができない。
  3. 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から10年を経過していないときは、裁判所は、第1項の裁判をすることができない。
  4. 第1項の規定により共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。
  5. 前各項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。

条文の趣旨と解説

令和3年民法・不動産登記法改正により新設された規定です。

共有者の一部に所在を知ることができない共有者等がいる場合には、共有物の管理に支障が生ずるおそれがあることから、共有関係を解消するという方法が考えられますが、改正前民法においては、共有関係を解消するには、一定の時間や手続を要する裁判による共有物分割の方法をとらざるを得ませんでした。
そこで、改正民法では、共有者のなかに所在等不明共有者がいる場合に、共有物分割を経ずに共有関係を解消することができる制度が創設されました。

所在等不明共有者の持分の取得手続

不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、所在等不明共有者の持分を取得させる旨の裁判をすることができます(本条1項前段)。
請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させます(本条1項後段)。

他の分割請求事件との関係

他に遺産分割調停又は共有物分割請求事件が係属しており、その中で、所在等不明共有者の持分も含めて全体について適切な分割を実現することを希望している共有者がいる場合には、基本的にはその分割請求事件の中で適切な分割をするべきであり、それとは別に、所在等不明共有者の持分のみを共有者の1人が取得する手続を先行させるべきではないと考えられます(法制審議会民法・不動産登記法部会『部会資料51』)。
そこで、所在等不明共有者の持分の取得の請求があった場合において、258条1項の規定による共有物分割請求又は遺産分割請求があり、かつ、所在等不明共有者以外の共有者から、所在等不明共有者の持分を取得する裁判をすることについて異議がある旨の届出をしたときは、裁判所は、所在等不明共有者の持分を取得する裁判をすることができないものとされています(本条2項)。

所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合

相続人の持分についても、原則として所在等不明共有者の持分の取得手続を利用することができますが、相続人の遺産分割上の権利を保護するため、相続人の共有持分権を取得するには相続開始時から10年を経過していることが要件とされています(本条3項)。

時価相当額の支払請求権

所在等不明共有者の持分の取得手続により共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払請求権を取得します(本条4項)。この所在等不明共有者の時価相当額請求権を実質的に確保する観点から、所在等共有者の持分を取得する旨の裁判をするためには、申立人に対して、一定の期間内に、裁判所の定める額の金銭を裁判所の指定する供託所に供託し、かつ、その旨を届け出るべきことを命じなければならないものとされています(非訟事件手続法87条5項)。

不動産に関する財産権について

不動産に関する財産権(賃借権等)の共有持分についても、所在等不明共有者の持分の取得手続を利用することができます(本条5項)。

手続等

所在等不明共有者の持分の取得に関して、その手続等については、非訟事件手続法において規定されています。

非訟事件手続法第87条
  1. 所在等不明共有者の持分の取得の裁判(民法第262条の2第1項(同条第5項において準用する場合を含む。次項第1号において同じ。)の規定による所在等不明共有者の持分の取得の裁判という。以下この条において同じ。)に係る事件は、当該裁判にかかる不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。
  2. 裁判所は、次に掲げる事項を公告し、かつ、第2号、第3号及び第5号の期間が経過した後でなければ、所在等不明共有者の持分の取得の裁判をすることができない。この場合において、第2号、第3号及び第5号の期間は、いずれも3箇月を下ってはならない。
    一 所在等不明共有者(民法第262条の2第1項に規定する所在等不明共有者をいう。以下この条において同じ。)の持分について所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てがあったこと。
    二 裁判所が所在等不明共有者の持分の取得の裁判をすることについて異議があるときは、所在等不明共有者は一定の期間内にその旨の届出をすべきこと。
    三 民法第262条の2第2項(同条第5項において準用する場合を含む。)の異議の申出は、一定の期間内にすべきこと。
    四 前2号の届出がないときは、所在等不明共有者の持分の取得の裁判がされること。
    五 所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てがあった所在等不明共有者の持分について申立人以外の共有者が所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てをするときは一定の期間内にその申立てをすべきこと。
  3. 裁判所は、前項の規定による公告をしたときは、遅滞なく、登記簿上その氏名又は名称が判明している共有者に対し、同項各号(第2号を除く。)の規定により公告した事項を通知しなければならない。この通知は、通知を受ける者の登記簿上の住所又は事務所に宛てて発すれば足りる。
  4. 裁判所は、第2項第3号の異議の届出が同号の期間を経過した後にされたときは、当該届出を却下しなければならない。
  5. 裁判所は、所在等不明共有者の持分の取得の裁判をするには、申立人に対して、一定の期間内に,所在等不明共有者のために、裁判所が定める額の金銭を裁判所の指定する供託所に供託し、かつその旨を届け出るべきこと命じなければならない。
  6. 裁判所は、前項の規定による決定をした後所在不明共有者の持分の取得の裁判をするまでの間に、事情の変更により同項の規定による決定で定めた額を不当と認めるに至ったときは、同項の規定により供託すべき金銭の額を変更しなければならない。
  7. 前2項の規定による裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
  8. 裁判所は、申立人が第5項の規定による決定に従わないときは、その申立人の申立てを却下しなければならない。
  9. 所在等不明共有者の持分の取得の裁判は、確定しなければその効力を生じない。
  10. 所在等不明共有者の持分の取得の裁判は、所在等不明共有者に告知することを要しない。
  11. 所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てを受けた裁判所が第2項の規定による公告をした場合において、その申立てがあった所在等不明共有者の持分について申立人以外の共有者が同項第5項の期間が経過した後に所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てをしたときは、裁判所は、当該申立人以外の共有者による所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てを却下しなければならない。

条文の位置付け