雄大な山

司法試験に合格して弁護士になるまでの間、「司法修習」という約1年半の研修期間がある。

ぼくは司法試験に合格するまでは無我夢中だったが、司法試験に合格してから司法修習が始まるまでの間、だんだんと弁護士業が自分の一生の仕事になるんだという現実味を帯びてきて、弁護士という仕事の「やりがい」について考えにふけるようになった。

「本当に自分がやりたいと思える職業なのだろうか」

さまざまな本を読んでみたり、映画を見たり、一人旅に出てみたりもしたが、あたまの中ではいくら考えても、これといった結論が出ることはなかった。

修習で出会った一言

司法修習では、指導担当の弁護士にくっついてまわって、間近で弁護士の仕事を見学する。
指導担当の先生とともに、お客さんの自宅を訪問したり、事件の現場を見にいったり、休みの日には、お花見にも行ったし、ゴルフにも行ったし、お客さんと一緒に海に行ったこともあった。

その合間には、指導担当の先生と、たわいもない話もする。
でも、そんなちょっとした話が、ぼくの価値観にも大きな影響を与えたこともある。

以下は、修習生だったときのぼくと、指導担当の弁護士との会話。

ぼく「何で、先生は弁護士になったんですか?」
先生「自分でもよく分からん。」
ぼく「いやいやいや、何か面白そうだと思って弁護士になったんじゃないですか。」
先生「弁護士になった頃は、いったい何が面白いのか分からなかった。」
ぼく「えー、これからぼく弁護士になるんですけど。。。」
先生「でも、7、8年くらいしてから、ようやく少し面白さが分かってきた。」

この話を聞いて、ずいぶんと悠長な話なんだな、と思った。
でも、それと同時に、なんだか素敵な考えだな、とも思った。

仕事を始める前から「やりがい」とか「面白さ」を期待するんじゃなくて、
自分で仕事をするなかで、見つけたり、感じたりしていく。

いまのぼくが感じる弁護士の仕事のやりがい

そんなぼくも、気づけば弁護士10年目となり、もう指導担当の先生が言っていた「7、8年」という年をゆうに越えていた。
まだまだ苦労することはあるけれど、自分の仕事というものを客観的に見る余裕が少しは出てきた。そして、なんとなく指導担当の先生の言っていることもわかってきた気がする。
実際に働いてみないと、実感としてやりがいや面白さは分からない。

ありきたりな結論ではあるが、やはり弁護士の仕事のやりがいは、人の悩みを解決してお客さんから感謝されるということだと思う。
いつも感謝の言葉をかけてもらえるわけではないけれど、目の前のお客さんが本当に喜んでいるんだなと思えたとき、ちょっとした充実感に包まれる。
この感じが、いまの仕事に対するやりがいや面白さを生み出しているんだと思っている。

また7、8年したら考えも変わっていくかもしれないけれど。