事案の概要

  • Dは、平成2年6月29日、すべての財産を上告人Yに包括して遺贈する旨遺言した。
  • Dは、平成2年7月7日死亡した。同人の法定相続人は、妻である被上告人B1並びに子である被上告人B2、同B3、上告人X及びEである。
  • Dは、相続開始の時において、複数の不動産を所有していた。
  • 被上告人らは、Xに対し、平成3年1月23日到達の書面をもって遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をした。

本判決の内容(抜粋)

最高裁平成8年11月26日第三小法廷判決
 被相続人が相続開始の時に債務を有していた場合の遺留分の額は、民法一〇二九条、一〇三〇条、一〇四四条に従って、被相続人が相続開始の時に有していた財産全体の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、それに同法一〇二八条所定の遺留分の割合を乗じ、複数の遺留分権利者がいる場合は更に遺留分権利者それぞれの法定相続分の割合を乗じ、遺留分権利者がいわゆる特別受益財産を得ているときはその価額を控除して算定すべきものであり、遺留分の侵害額は、このようにして算定した遺留分の額から、遺留分権利者が相続によって得た財産がある場合はその額を控除し、同人が負担すべき相続債務がある場合はその額を加算して算定するものである。

前提知識と簡単な解説

遺留分の算定

遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定します(民法1029条1項)。

遺留分についての代襲相続及び相続分の規定の準用

民法887条2項(代襲者の相続権)、民法900条(法定相続分)、民法901条(代襲相続人の相続分)、民法903条及び民法904条(特別受益者の相続分)は、遺留分について準用するものとされています(民法1044条)。

遺贈及び贈与の減殺請求

遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び1030条に規定する贈与の減殺を請求することができます(民法1031条)。

本判決の意義

本判決は、遺留分の額の算定について、「被相続人が相続開始の時に有していた財産全体の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、それに同法一〇二八条所定の遺留分の割合を乗じ、複数の遺留分権利者がいる場合は更に遺留分権利者それぞれの法定相続分の割合を乗じ、遺留分権利者がいわゆる特別受益財産を得ているときはその価額を控除して算定」し、遺留分侵害額の算定については、「遺留分の額から、遺留分権利者が相続によって得た財産がある場合はその額を控除し、同人が負担すべき相続債務がある場合はその額を加算して算定する」と判示しました。

追記:平成30年民法改正について

平成30年民法(相続関係)改正により、遺留分の額の算定方法(改正民法1042条)及び遺留分侵害額の算定方法(改正民法1046条)が明確化されました。