民法第660条
  1. 寄託物について権利を主張する第三者が受寄者に対して訴えを提起し、又は差押え、仮差押え若しくは仮処分をしたときは、受寄者は、遅滞なくその事実を寄託者に通知しなければならない。ただし、寄託者が既にこれを知っているときは、この限りでない。
  2. 第三者が寄託物について権利を主張する場合であっても、受寄者は、寄託者の指図がない限り、寄託者に対しその寄託物を返還しなければならない。ただし、受寄者が前項の通知をした場合又は同項ただし書の規定によりその通知を要しない場合において、その寄託物をその第三者に引き渡すべき旨を命ずる確定判決(確定判決と同一の効力を有するものを含む。)があったときであって、その第三者にその寄託物を引き渡したときは、この限りでない。
  3. 受寄者は、前項の規定により寄託者に対して寄託物を返還しなければならない場合には、寄託者にその寄託物を引き渡したことによって第三者に損害が生じたときであっても、その賠償の責任を負わない。
平成29年改正前民法第659条
寄託物について権利を主張する第三者が受寄者に対して訴えを提起し、又は差押え、仮差押え若しくは仮処分をしたときは、受寄者は、遅滞なくその事実を寄託者に通知しなければならない。

条文の趣旨と解説

通知義務

第三者から訴え提起等の権利主張があったときに、受託者に通知義務を課すものです
平成29年民法(債権関係)改正により、ただし書が付け加えられ、寄託者が訴え提起等の事実を知っている場合には、受寄者が通知義務を負わないことが明文化されました。

返還の相手方

受寄者は、寄託者に対して寄託物を返還すべき義務を負っています。このため、第三者から寄託物の返還請求を受けたときでも、原則として、当該第三者に任意に寄託物を引き渡すことはできません(2項本文)。

しかし、寄託物の引渡しを命ずる判決が確定した場合など、受寄者が当該第三者に対して返還することができる場合もあるところ、寄託物の返還の相手方に関する規律を明確化すべきであるという指摘がありました。

そこで、1項の規律に従って受寄者が寄託者に対して通知をしていたことを要件とした上で、受寄者と第三者との間で裁判上の和解をした場合や受寄者が請求を認諾したときには、受寄者が第三者に対して寄託物を引き渡すことができるものと定められました(2項ただし書)。

条文の位置付け