民法第372条
第296条、第304条及び第351条の規定は、抵当権について準用する。

条文の趣旨と解説

不可分性

被担保債権の一部が消滅しても、抵当権は、残存する債権のために目的物全部の上に効力が及びます(本条において準用する296条)。

物上代位

抵当権は、目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって抵当物の所有者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができます(本条において準用する304条1項本文)。物上代位の対象となる権利の具体例として、目的物の滅失があった場合の保険金請求権や不法行為者に対する損害賠償請求権、目的物が賃貸されている場合の賃料請求権(最高裁平成元年10月27日第二小法廷判決)が挙げられます。

ただし、抵当権者が物上代位権を行使するためには、その払渡し又は引渡しの前に差押え(民事執行法193条1項後段、同法181条1項)をしなければなりません(本条において準用する304条1項ただし書)。

物上代位の目的債権が譲渡された場合

判例は、304条1項ただし書の趣旨を「主として、抵当権の効力が物上代位の目的となる債権にも及ぶことから、右債権の債務者(以下「第三債務者」という。)は、右債権の債権者である抵当不動産の所有者(以下「抵当権設定者」という。)に弁済をしても弁済による目的債権の消滅の効果を抵当権者に対抗できないという不安定な地位に置かれる可能性があるため、差押えを物上代位権行使の要件とし、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前には抵当権設定者に弁済をすれば足り、右弁済による目的債権消滅の効果を抵当権者にも対抗することができることにして、二重弁済を強いられる危険から第三債務者を保護するという点にある」とした上で、304条1項ただし書の払渡し又は引渡しには「債権譲渡は含まれず、抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる」と判示しました(最高裁平成10年1月30日第二小法廷判決)。

物上代位の目的債権が他の債権者によって差し押さえられた場合

判例は、「債権について一般債権者の差押えと抵当権者の物上代位権に基づく差押えが競合した場合には、両者の優劣は一般債権者の申立てによる差押命令の第三債務者への送達と抵当権設定登記の先後によって決せられ、右の差押命令の第三債務者への送達が抵当権者の抵当権設定登記より先であれば、抵当権者は配当を受けることができない」としています(最高裁平成10年3月26日第一小法廷判決)。

物上代位の目的債権について転付命令が取得された場合

判例は、「転付命令に係る金銭債権(以下「被転付債権」という。)が抵当権の物上代位の目的となり得る場合においても、転付命令が第三債務者に送達される時までに抵当権者が被転付債権の差押えをしなかったときは、転付命令の効力を妨げることはできず、差押命令及び転付命令が確定したときには、転付命令が第三債務者に送達された時に被転付債権は差押債権者の債権及び執行費用の弁済に充当されたものとみなされ、抵当権者が被転付債権について抵当権の効力を主張することはできない」としています(最高裁平成14年3月12日第三小法廷判決)。

物上代位の目的債権について相殺がされた場合

判例は、「抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は、抵当不動産の賃借人は、抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって、抵当権者に対抗することはできない」としています(最高裁平成13年3月13日第三小法廷判決)。

物上保証人の求償権

他人の債務を担保するため抵当権を設定した物上保証人は、その債務を弁済し、又は質権の実行によって質物の所有権を失ったときは、保証債務に関する規定に従い、債務者に対して求償権を有します(本条において準用する351条)。
具体的には、債務者の委託を受けて物上保証人となった場合には、弁済に充てられた額並びに弁済等があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害を求償することができます(459条1項同条2項において準用する442条2項)。
債務者の委託を受けないで物上保証人となった場合、抵当権の設定が債務者の意思に反しないときは、物上保証人は弁済当時利益を受けた限度において求償することができ(462条1項において準用する459条の2第1項)、抵当権の設定が債務者の意思に反するときは、物上保証人は債務者が現に利益を受けている限度においてのみ求償することができます(462条2項)。

条文の位置付け