- 民法第666条
-
- 受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合には、受寄者は、寄託された物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還しなければならない。
- 第590条及び第592条の規定は、前項に規定する場合について準用する。
- 第591条第2項及び第3項の規定は、預金または貯金にかかる契約により金銭を寄託した場合について準用する。
- 平成29年改正前民法第666条
-
- 第5節(消費貸借)の規定は、受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合について準用する。
- 前項において準用する第591条第1項の規定にかかわらず、前項の契約に返還の時期を定めなかったときは、寄託者は、いつでも返還を請求することができる。
条文の趣旨と解説
平成29年民法(債権関係)改正
改正前民法は、消費寄託について、広く消費貸借の規定を準用していました。
消費寄託は、寄託物の処分権を受寄者に移転するという点で他の寄託と異なる一方で、受寄者が受寄物を消費することができるという点で消費貸借と類似していたからです。
しかし、消費寄託は、自ら保管する危険を回避するという寄託の利益が寄託者にあるのに対し、消費貸借は、借主がその目的物を利用するためのものです。そこで、改正前民法のように広く消費貸借の規定を準用するのは適切ではなく、消費貸借との違いがある部分については、寄託の規定を適用していくこととされました。
受寄者の返還義務
受寄者が負う返還義務の内容が明文化されました。
消費寄託においては、受寄者は、寄託された物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還しなければなりません(1項)。
消費貸借の規定の準用
消費貸借の準用の範囲は限定されることとなりましたが、契約内容に適合した目的物を引き渡す責任及び契約不適合である場合の価額の返還(590条)、返還不能の場合における価額償還義務(592条)に関する消費貸借の規定は、引き続き準用されます(2項)。
預貯金契約における受寄者からの返還
一般の消費寄託については、寄託の規定である663条2項が適用される結果、受寄者は「やむを得ない事由がなければ、その期限前に寄託物を返還することができない」こととされました。これは、寄託が専ら寄託者の利益を目的としていることを理由とします。
しかし、預貯金契約は、受寄者が預かった金銭を運用することを前提としており、受寄者にとっても利益がある点で、他の消費寄託とは異なるといえます(部会資料81-3)。
そこで、預貯金契約については、民法第663条第2項の適用を排除し、受寄者が、寄託物をいつでも返還することができる旨の特則を設けられました(3項)。