民法第443条
  1. 他の連帯債務者があることを知りながら、連帯債務者の一人が共同の免責を得ることを他の連帯債務者に通知しないで弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得た場合において、他の連帯債務者は、債権者に対抗することができる事由を有していたときは、その負担部分について、その事由をもってその免責を得た連帯債務者に対抗することができる。この場合において、相殺をもってその免責を得た連帯債務者に対抗したときは、その連帯債務者は、債権者に対し、相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
  2. 弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得た連帯債務者が、他の連帯債務者があることを知りながらその免責を得たことを他の連帯債務者に通知することを怠ったため、他の連帯債務者が善意で弁済その他自己の財産をもって免責を得るための行為をしたときは、当該他の連帯債務者は、その免責を得るための行為を有効であったものとみなすことができる。
平成29年改正前民法第443条
  1. 連帯債務者の一人が債権者から履行の請求を受けたことを他の連帯債務者に通知しないで弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得た場合において、他の連帯債務者は、債権者に対抗することができる事由を有していたときは、その負担部分について、その事由をもってその免責を得た連帯債務者に対抗することができる。この場合において、相殺をもってその免責を得た連帯債務者に対抗したときは、過失のある連帯債務者は、債権者に対し、相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
  2. 連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たことを他の連帯債務者に通知することを怠ったため、他の連帯債務者が善意で弁済をし、その他有償の行為をもって免責を得たときは、その免責を得た連帯債務者は、自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができる。

条文の趣旨と解説

連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは、その連帯債務者は、他の債務者に対して、負担部分に応じた額の求償権を有します(442条1項)。しかし、弁済等をするに当たり、他の債務者に対する事前及び事後の通知を怠った場合には、以下のような求償権の制限を受けることになります(本条)。

事前の通知を怠った場合(本条1項)

他の連帯債務者があることを知りながら、連帯債務者の一人が共同の免責を得ることを他の連帯債務者に通知しないで弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得た場合において、他の連帯債務者が債権者に対抗することできる事由を有していたときは、その負担部分について、その事由をもってその免責を得た連帯債務者に対抗することができます(本条1項前段)。この規定の趣旨は、債権者に対抗できる事由を有している連帯債務者に対して、その事由を主張する機会を与えようとすることにあると考えられています。

「債権者に対抗することができる事由」としては、求償された連帯債務者が債権者に対して、相殺(505条)することができる反対債権を有していた場合が考えられます。この場合に、求償された連帯債務者が、相殺をもってその免責を得た連帯債務者に対抗したときは、免責を得た連帯債務者は、債権者に対し、相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができます(本条1項後段)。

事後の通知を怠った場合(本条2項)

弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得た連帯債務者が、他の連帯債務者があることを知りながらその免責を得たことを他の連帯債務者に通知することを怠ったため、他の連帯債務者が善意で弁済その他自己の財産をもって免責を得るための行為をしたときは、当該他の連帯債務者は、その免責を得る行為を有効であったものとみなすことができます(本条2項)。

なお、第一の弁済者が事前及び事後の通知を怠り、第二の弁済者も事前の通知を怠っていたという事案において、第二の弁済者が本条2項の適用により自己の弁済を有効とみなすことができるかという問題について、判例は「連帯債務者の一人が弁済その他の免責の行為をするに先立ち、他の連帯債務者に通知することを怠った場合は、既に弁済しその他共同の免責を得ていた他の連帯債務者に対し、民法443条2項の規定により自己の免責行為を有効であるとみなすことはできない」としています(最高裁昭和57年12月17日第二小法廷判決)。

条文の位置付け