民法第400条

債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。

平成29年改正前民法第400条
債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。

条文の趣旨と解説

債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、目的物の引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その保存をしなければなりません。
ここでいう「保存」とは、自然的又は人為的滅失毀損から物を保護して物の経済的価値を維持することと考えられています(於保不二雄『債権総論(新版)』)。

善管注意義務について

保存に際しての注意の基準として、本条は、「善良な管理者の注意」をもって保存をしなければならないと規定しています。
平成29年民法(債権関係)改正前において、「善良な管理者の注意」の程度は、「債務者の職業、その属する社会的・経済的な地位などにおいて一般に要求されるだけの注意」(我妻栄『新訂債権総論』)などと解されており、注意義務の程度は均一でなく、契約その他の法律関係に基づき個別的に定まると考えられていました。
改正民法では、この理解を明らかにするため、善管注意義務の内容や程度は、「契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる」との文言が明記されました。

履行期後の善管注意義務

本条に定める善管注意義務は、履行期までではなく、目的物の引渡しがされる時まで存続します。
ただし、債権者が受領遅滞に陥っているときは、債務者は注意義務を軽減され、「自己の財産に対するのと同一の注意」をもって保存すれば足ります(民法413条1項)。

条文の位置付け