以前働いていた事務所を退職して独立しようとする日に、たまたまエレベーターのなかで、ぼくが尊敬する事務所の先生と2人きりになった。先生は、家族と接するときのように話しかけてくれた。ぼくは先生のそんな人柄に惹かれていた。

エレベーターで2人きりになったとき、ぼくへのはなむけの言葉と思うのだが、先生はこのようなことを話してくれた。「法律事務所が集客を目指すことは間違っていない。問題はやり方。キレイな集客を目指しなさい。」と。

「キレイな」という言葉は、強く私の心に残った。独立した後も、事務所経営について考えるとき、「キレイな集客」とはどういうことか、ふっと頭をよぎった。最近では、テレビやラジオで宣伝をする法律事務所が増えたが、そもそも法律事務所にとって大量に広告を出すことが「キレイな集客」といえるのだろうかと、疑問に感じたこともある。

「キレイな」をどう感じるかは人それぞれかもしれないけれど、ぼくなりに考えた末、「キレイな集客」というのは、まず事務所自身が社会に求められる存在となって、その結果として、顧客が集まってくることだと思うようになった。社会で求められる存在になるためには、単に「裁判」だけをやるのではなく、人々が生活をする上で必要なこと、たとえば行政手続の申請や、日常的な法律問題の解決などにも、積極的に取り組んで行くことが肝心だと考える。

「生活の一部となる事務所づくり」
まだ目標には程遠い。けれど、いろいろな人と話をしているうちに、イメージは描けてきたような気がする。

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