- 民法第401条
- 債権の目的物を種類のみで指定した場合において、法律行為の性質又は当事者の意思によってその品質を定めることができないときは、債務者は、中等の品質を有する者を給付しなければならない。
- 前項の場合において、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは、以後その物を債権の目的物とする。
条文の趣旨と解説
種類債権とは、一定の種類に属する物のうち、一定の数量の物の引渡しを目的とする債権をいいます。
種類債権における目的物の品質
種類債権においては、いかなる程度の品質の物を給付すべきかが問題となり、本条1項は、品質を決定する基準を示しています。第1に、法律行為の性質又は当事者の意思によって品質が定まります。法律行為の性質によって品質が定まる場合の具体例としては、消費貸借の借主の返還債務について、受け取った物と「同じ」品質の物として定まる場合(民法587条)や、消費寄託の受寄者の返還債務について、寄託された物と「同じ」品質の物として定まる場合(民法666条1項)などが挙げられます。
第2に、法律行為の性質又は当事者の意思によって品質を定めることができない場合には、中等の品質となります。何が中等であるかは、主として取引慣行により決せられると解されています(我妻栄『新訂債権総論(民法講義Ⅳ)』)。
種類債権における目的物の特定
本条1項により品質が定まったとしても、種類債権の目的物は抽象的に定まっているに過ぎないため、種類債務を現実に履行するためには、具体的に特定のものに定まる必要があります。種類債権の目的物が特定のものに定まることを、種類債権の特定といいます。特定の方法
まず、両当事者の合意により目的物を選定した場合には、特定が生じます。また、たとえば、当事者によって第三者に指定権が与えられ、その第三者が目的物を指定した場合にも特定が生じると考えられます。このほか、本条2項は、特定の方法として、(i)債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了した場合、(ii)債権者の同意を得て給付すべき物を指定した場合を定めています。
「物の給付をするのに必要な行為」の具体的な内容
本条2項が規定する「物の給付をするのに必要な行為」については、債務者の履行の態様の区別に応じて、次のように考えられています。(i) 債務者が目的物を債権者の住所に持参して引き渡す持参債務の場合、債務者が債権者の現在の住所において現実の提供をしたときに、特定が生じます。
(ii) 債権者が債務者の住所に取立てに行く取立債務の場合、債務者が目的物を分離し、引渡の準備を整えて、これを債権者に通知することによって、特定が生じます。なお、この特定のための債務者の行為は、債務者が履行遅滞の責任を免れるための弁済の提供(民法493条ただし書)と同一ではなく、特定のためには、債権者への通知だけでは足りず、目的物の分離が必要と解されています(最高裁昭和30年10月18日第三小法廷判決参照)。
(iii) 債権者又は債務者の住所以外の第三地に送付する送付債務の場合、一義的な基準があるわけではありませんが、契約の解釈等により第三地において履行することが債務者の義務として定められていると解される場合には、持参債務と同様に、債務者が第三地において現実の提供をしたときに、特定が生ずることになると考えられます。これに対して、債務者が債権者の要請に応じて好意で第三地に送付するような場合には、債務者が第三地に向けて発送をした時点で、債務者としてなすべき行為を完了したものとみることができ、この時点で特定が生じるものと考えられます。
特定の効果
(1) 引き渡すべき目的物が特定することにより、債務者は、その引渡しをするまで、善良な管理者の注意をもって、その物を保存する義務を負うことになります(民法400条)。(2) 判例によれば、不特定物の売買は、原則として目的物が特定した時に所有権が買主に移転すると解されています(最高裁昭和35年6月24日第二小法廷判決)。
(3) 平成29年改正前民法下における通説的見解では、特定後に目的物が滅失した場合には、履行不能となり、債務者は調達義務を負わないと解されていました。しかし、平成29年民法改正により規定された民法567条1項は、目的物の引渡しがあるまでは、買主は追完の請求ができるようにも読めることから(山本敬三『契約法の現代化Ⅲ』)、特定後、引渡し前に、目的物が滅失又は損傷した場合の帰趨については、学説上考え方の対立が生じています(中田裕康『債権総論』)。