民法第410条

債権の目的である給付の中に不能のものがある場合において、その不能が選択権を有する者の過失によるものであるときは、債権は、その残存するものについて存在する。

平成29年改正前民法第410条
  1. 債権の目的である給付の中に、初めから不能であるもの又は後にいたって不能となったものがあるときは、債権は、その残存するものについて存在する。
  2. 選択権を有しない当事者の過失によって給付が不能となったときは、前項の規定は適用しない。

条文の趣旨と解説

平成29年改正前民法は、選択債権の目的である給付のなかに原始的不能又は後発的不能のものがある場合には、残部に特定する旨を定めていました。ただ、この例外として、選択権者でない当事者の過失によって不能になった場合に、残部に特定せず、選択権者はなお不能となった給付を選択することができる旨を定めていました。

平成29年民法(債権関係)改正について

(1) 原始的不能と後発的不能について

改正民法では、原始的不能であることのみを理由として契約が無効となることはないという考え方を前提としますので(民法412条の2)、原始的不能であっても、選択の対象が当然には限定されないものとするのが整合的であると考えられます。

(2) 不能により選択債権が特定される場合

当事者の一方が選択権を有する場合において、当事者双方の過失によらないで給付が不能となったときは、選択権者の選択権を奪わずに、不能の給付を選択する余地を認めることによって、柔軟な解決を図るのが合理的と考えられます。
また、第三者が選択権を有する場合についても、選択権者でない当事者(債権者又は債務者)の過失によって給付が不能となった場合には、第三者の選択権を奪うのは相当でないと考えられます。選択権者でない当事者(債権者又は債務者)の過失によって不能となったわけではないが、選択権者である第三者の過失によって不能となったわけでもない場合には、同様に第三者の選択権を奪わずに、不能の給付を選択する余地を認めるのが合理的と考えられます(部会資料68A)。

以上のような問題意識から、改正法では、債権の目的である給付の中に不能のものがある場合においても、原則として、残存する給付に特定されることはなく、例外的に、給付の不能が選択権を有する者の過失によるものである場合に限り、債権の特定が生ずるものとされました(本条)。

条文の位置付け