民法第258条の2
  1. 共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について前条の規定による分割をすることができない。
  2. 共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から10年を経過したときは、前項の規定にかかわらず、相続財産に属する共有物の持分について前条の規定による分割をすることができる。ただし、当該共有物の持分について遺産の分割の請求があった場合において、相続人が当該共有物の持分について同条の規定による分割をすることに異議の申出をしたときは、この限りでない。
  3. 相続人が前項ただし書の申出をする場合には、当該申出は、当該相続人が前条第1項の規定による請求を受けた裁判所から当該請求があった旨の通知を受けた日から2箇月以内に当該裁判所にしなければならない。

条文の趣旨と解説

令和3年民法・不動産登記法改正により新設された規定です。

判例は、遺産相続により相続人の共有となった財産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、「家庭裁判所が審判によってこれを定めるべきものであり、通常裁判所が判決手続で判定すべきものではない」としていました(最高裁昭和62年9月4日第三小法廷判決)。
そして、共有物について遺産共有持分と他の共有持分とが併存する場合においては。遺産共有持分権者を含む共有権者が遺産共有持分と他の共有持分との間の共有関係の解消を求める方法として裁判上採るべき手続は民法258条に基づく共有物分割訴訟であり、さらに、共有物分割の判決によって遺産共有持分権者に分与された財産は遺産分割の対象になるとし、この財産の共有関係の解消について民法907条に基づく遺産分割によらなければならない、としていました(最高裁平成25年11月29日第二小法廷判決)。

他方で、事案によっては、共有物分割の中で、相続人間の分割を実施した方が、当該共有物に関する帰属が迅速に定まり、相続人にとっても便宜であるケースもあると考えられます(法制審議会民法・不動産登記法部会『部会資料42』)。

改正法は、原則として、上記判例法理に従い、遺産共有の解消は遺産分割の手続によらなければならないとしつつ(本条1項)、例外的に、相続開始時から10年を経過したときは、裁判所は相続財産に属する共有物の持分について民法258条の規定による共有物分割をすることができると規定しています(本条2項本文)。
ただし、相続人の遺産分割上の権利も考慮し、相続人が異議の申出をした場合には、共有物分割による処理によることはできないものとしています(本条2項ただし書)。

なお、本条2項本文に基づき、共有物分割請求訴訟の中で相続人間の分割もすることを前提に審理が進められていた場合に、たとえば弁論の終結間際に相続人から異議の申出がされると、それまでの審理が無駄となってしまう事態も考えられます(法制審議会民法・不動産登記法部会『部会資料51』)。そこで、このような事態を防止するという観点から、相続人が異議の申出をすることができる期間は、共有物分割請求を受けた裁判所から当該請求があった旨の通知を受けた日から2箇月以内とされています(本条3項)。

条文の位置付け