民法第424条の6
  1. 債権者は、受益者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しとともに、その行為によって受益者に移転した財産の返還を請求することができる。受益者がその財産の返還をすることが困難であるときは、債権者は、その価額の償還を請求することができる。
  2. 債権者は、転得者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しとともに、転得者が転得した財産の返還を請求することができる。転得者がその財産の返還をすることが困難であるときは、債権者は、その価額の償還を請求することができる。

条文の趣旨と解説

平成29年民法(債権関係)改正により新設された規定です。

改正前は、詐害行為取消権の性質につき、判例は、詐害行為の取り消す権利としての性格と、逸出財産の返還を請求する権利としての性格とを併有するものと捉えていました(大審院明治44年3月24日判決)。

また、逸出財産の返還の方法として、改正前民法下における判例は、原則として現物の返還によるが、例外的に、受益者が詐害行為によって得た利益を保有していない場合(大審院昭和7年9月15日判決)や、抵当権が設定されている不動産を抵当権者に代物弁済として譲渡されて抵当権が消滅している場合(最高裁昭和36年7月19日大法廷判決)など特別な事情がある場合には、価格の賠償によるべきであると解していました。
本条は、このような判例法理を明文化したものです。なお、改正法では、従来の「価格賠償」という用語については、破産法169条等を参考として、「価額」「償還」という文言が使用されています。

価額償還の場合の算定基準時

改正前民法下における判例は、価格賠償をすべきときの価格の算定の基準時は、「特別の事情がないかぎり、当該詐害行為取消訴訟の事実審口頭弁論終結時を基準としてなすべき」とし、その理由として「右価格賠償における価格の算定は、受益者が事実審口頭弁論終結時までに当該不動産の全部又は一部を他に処分した場合において、その処分後に予期しえない価額の高騰があり、詐害行為がなくても債権者としては右高騰による弁済の利益を受けえなかったものと認められる等特別の事情がないかぎり、詐害行為取消の効果が生じ受益者において財産回復義務を負担する時、すなわち、詐害行為取消訴訟の認容判決確定時に最も接着した時点である事実審口頭弁論終結時を基準とするのが、詐害行為によって債務者の財産を逸出させた責任を原因として債務者の財産を回復させることを目的とする詐害行為取消制度の趣旨に合致し、また、債権者と受益者の利害の公平を期しえられるからである」としています(最高裁昭和50年12月1日第二小法廷判決

条文の位置付け