民法第108条
  1. 同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
  2. 前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
平成29年改正前民法第108条
同一の法律行為については、相手方の代理人となり、又は当事者双方の代理人となることはできない。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。

条文の趣旨と解説

自己契約及び双方代理

代理人が、自分と相手方との法律行為について相手方の代理人となること(自己契約)、又は当事者双方の代理人となること(双方代理)は原則として禁止されます(本条1項本文)。

平成29年改正前民法108条は、自己契約及び双方代理の効果を明確に規定していませんでしたが、改正前民法下における判例は、「本人による事前の承認または追認を得ないかぎり、無権代理行為として無効」と解していました(最高裁昭和47年4月4日第三小法廷判決)。そこで、改正民法は、この判例法理を明文化し、「代理権を有しないものがした行為とみなす」と規定しています(本条1項本文)。

本条の立法理由は本人の利益を保護することにあるとあると解されています(我妻栄『新訂民法総則』)。そのため、新たな利益の変動を生じない債務の履行や、本人があらかじめ許諾していた場合には、有効な代理行為となります(本条1項ただし書)。

利益相反行為

平成29年民法改正前において、自己契約や双方代理に当たらない場合であっても、代理人と本人の利益が相反する行為については、民法108条の趣旨に準拠し、その効力を生じないと解されていました(大審院昭和7年6月6日第一民事部判決参照)。そこで、改正民法は、このような解釈を明文化しています(本条2項)。

条文の位置付け