民法第117条
  1. 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
  2. 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
    1. 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
    2. 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。
    3. 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。
平成29年改正前民法第117条
  1. 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
  2. 前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。

条文の趣旨と解説

代理権が無いにもかかわらず代理行為が行われた場合に、民法は、相手方の保護と取引の安全及び代理制度の信用保持のために、無権代理人に無過失責任を認めています(最高裁昭和62年7月7日第三小法廷判決)。

他人の代理人として契約をした者は、相手方の選択に従い、履行又は損害賠償の責任を負います。ただし、代理行為者が自己の代理権を証明した場合、又は本人の追認を得ることができた場合には、この責任から免れることができます(本条1項)。

また、無権代理人が次の事由を立証できた場合には、無権代理人の責任が否定されます(本条2項)。

  • 代理権を有しないことを相手方が知っていたとき(同項1号)。
  • 代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき(同項2号本文)。
    ただし、無権代理人において自己に代理権のないことを知っていたときは、無権代理人の責任が否定されることはありません(同項2号ただし書)。
  • 行為能力の制限を受けていたとき(同項3号)。

表見代理制度との関係

表見代理の成立が認められ、代理行為の法律効果が本人に及ぶことが裁判上確定された場合には、無権代理人の責任が認められる余地はありません。しかし、無権代理人の責任の要件と表見代理の要件がともに存在する場合、表見代理の主張をするかどうかは相手方の自由であり、相手方は、表見代理の主張をしないで、直ちに無権代理人に対し本条の責任を問うこともできるとされています(最高裁昭和62年7月7日第三小法廷判決)。

平成29年民法(債権関係)改正について

本条1項の表現が修正され、「自己の代理権」「本人の追認」の主張立証責任が、代理行為者にあることが明確にされています。
本条2項2号ただし書の規律については、無権代理人が自己に代理権がないことを知っていた場合は、無過失の無権代理人の責任を追及しているわけではないから、相手方に過失があったとしても無権代理人の責任を否定すべきではない、また、無権代理人と相手方との利益衡量という観点からも妥当であると考えられる、と説明されています(法制審議会民法(債権関係)部会『部会資料66A』)。

条文の位置付け