民法第1028条
  1. 被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
    1. 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
    2. 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。
  2. 居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しない。
  3. 第903条第4項の規定は、配偶者居住権の遺贈について準用する。

条文の趣旨と解説

平成30年民法(相続関係)等改正により配偶者居住権が創設されました。
創設の理由や審議の経緯については次の記事をご参照いただければと思います。
配偶者居住権について – 「民法(相続関係)等の改正に関する要綱案」より

配偶者居住権の成立要件

配偶者居住権は、相続開始時に配偶者が被相続人の所有する建物に居住していた場合において、(1) 遺産分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき、又は (2) 配偶者居住権が遺贈の目的とされたときに成立します(本条1項)。
また、被相続人と配偶者との間で、配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の死因贈与契約があるときにも成立します(554条)。

これに対して、特定財産承継遺言(1014条2項)は、配偶者居住権の成立事由から除外されています。遺贈の場合には配偶者はこれを放棄することができますが(986条1項)、遺産分割方法の指定である特定財産承継遺言の場合は、配偶者は相続そのものを放棄しない限り、配偶者居住権の取得を放棄することができないため、かえって配偶者の保護に欠ける結果となるおそれがあると考えられたからです(法制審議会民法(相続関係)部会『部会資料15』)。

建物の共有持分と配偶者居住権との関係

配偶者の共有持分

相続開始時において配偶者が居住建物の共有持分を有していた場合には、自己の持分に基づいて居住建物を使用することができるため、配偶者居住権を成立させる必要はないようにも思われます。しかし、この場合でも、他の共有者から使用料相当額の不当利得返還請求又は共有物分割請求がされた場合には、配偶者が居住建物での居住を継続することができなくなるおそれがあります(『部会資料25-2』)。そこで、相続開始時において配偶者が居住建物の共有持分を有していた場合でも、配偶者居住権の成立は妨げられないこととされています(本条1項ただし書参照)。

また、同じ理由から、配偶者が、配偶者居住権を取得した後に、当該居住建物の共有持分を取得した場合であっても、他の者が居住建物の共有持分を有する場合には、配偶者居住権は消滅しないことが定められています(本条2項)。

被相続人及び配偶者以外の第三者の共有持分

相続開始時において、被相続人及び配偶者を除く第三者が居住建物の共有持分を有している場合、遺贈や遺産の分割によって、当該第三者の共有持分による権利が制限されることは相当ではないと考えられるため、配偶者居住権は成立しないこととされています(本条1項ただし書)。

持戻し免除の意思表示の推定

婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、配偶居住権を目的とする遺贈又は死因贈与をしたときは、これらの遺贈等については、持戻し免除の意思表示があったものと推定されます(本条3項において準用する903条4項)。

条文の位置付け