民法第388条
土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。

条文の趣旨と解説

同一人が所有する土地又は土地上の建物に抵当権が設定された後、抵当権の実行により土地と建物の所有者を異にするに至ったときは、本来であれば、建物所有者は、無権原の建物所有となり、土地所有者からの建物収去及び土地明渡請求に応じざるを得ないことになりますが、それでは社会経済上も不都合であり、かつ抵当権設定当事者の合理的意思にも反すると考えられることから、このような場合に、法律上当然に地上権の成立を認めています。これを法定地上権といいます。

抵当権設定当時、土地上に建物が存すること

法定地上権が成立するためには、抵当権設定当時、土地上に建物が存することが必要です。
建物について保存登記がなかった場合にも、法定地上権は成立します(大審院昭和14年12月19日判決)。

抵当権設定当時に建物が存しなかった場合には、抵当権を設定した後に、建物を建設しても、法定地上権は成立しません(大審院大正4年7月1日判決)。
抵当権者が建物の築造を承認していたという事実があったとしても、同様です(最高裁昭和47年11月2日第一小法廷判決、最高裁昭和51年2月27日第三小法廷判決)。

抵当権設定当時に建物が存在したが、再築された場合

既に建物が存在する土地に抵当権が設定された後、建物が滅失し再築した場合には、原則として、旧建物が存在していたら成立したであろう法定地上権と同一の範囲において、法定地上権が成立します(大審院昭和10年8月10日判決)。
成立する法定地上権の内容について旧建物を基準とするのは、抵当権設定の際、旧建物の存在を前提とし、旧建物のための法定地上権が成立することを予定して土地の担保価値を算定した抵当権者に不測の損害を被らせないためです。
そこで、抵当権者の利益を害しないと認められる特段の事情がある場合には、再築後の新建物を基準として法定地上権が成立します。判例で問題となった事案では、抵当権設定当時、近い将来旧建物が取り壊され、堅固の建物である新工場が建築されることを予定して本件土地の担保価値を算定した場合に、新建物を基準とした法定地上権の成立が認められています(最高裁昭和52年10月11日第三小法廷判決)。

共同抵当の場合

土地及び地上建物に共同抵当権が設定された後、建物が取り壊され、土地上に新たに建物が建築された場合には、「新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたとき等特段の事情のない限り、新建物のために法定地上権は成立しない」とされています(最高裁平成9年2月14日第三小法廷判決)。

抵当権設定当時、土地と建物が同一の所有者に属していたこと

法定地上権が成立するためには、抵当権設定当時、土地と建物が同一の所有者に属していたことが必要です。はじめから土地と建物が別々の所有者に属していた場合には、建物のために土地利用権が設定されていたはずであり、法定地上権を成立させなくとも、この土地利用権に従って処理をすれば足りるからです。
他方で、抵当権が設定された以降に、土地と建物の所有者が異なることになった場合には、これらの所有者の間には、土地の利用関係について約定の土地利用権が設定されるものと考えられますが、当該約定を抵当権には対抗できないことから、土地の利用関係は、法定地上権に関する規律に従うことになります。

法定地上権の内容

法定地上権が成立した場合の地代については、当事者間に合意がまとまらなければ、当事者の請求により、裁判所が定めます(本条後段)。

条文の位置付け