民法第998条
遺贈義務者は、遺贈の目的である物又は権利を、相続開始の時(その後に当該物又は権利について遺贈の目的として特定した場合にあっては、その特定した時)の状態で引渡し、又は移転する義務を負う。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
平成30年改正前民法第998条
  1. 不特定物を遺贈の目的とした場合において、受遺者がこれにつき第三者から追奪を受けたときは、遺贈義務者は、これに対して、売主を同じく、担保の責任を負う。
  2. 不特定物を遺贈の目的とした場合において、物に瑕疵があったときは、遺贈義務者は、瑕疵のない物をもってこれに代えなければならない。

条文の趣旨と解説

平成30年民法(相続関係)等改正

平成30年改正前民法は、贈与の目的物が特定物か不特定物かを区別した上で、遺贈の目的が不特定物である場合に、改正前民法998条において、追奪担保責任(改正前民法998条1項)及び瑕疵担保責任(改正前民法998条2項)を定めていました。

しかし、平成29年民法(債権関係)改正により、売買等の担保責任に関する規律について、売主等は、目的物が特定物であるか、不特定物であるかを問わず、その種類、品質及び数量に関して、契約の内容に適合した目的物を引き渡す義務を負うことを前提として、引き渡された目的物が契約に適合しない場合における買主の救済手段を規定することとされています。そして、贈与については、贈与の無償性を考慮して、贈与の目的である物又は権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引渡し、又は移転することを約したものと推定するとの規定が設けられました(551条1項)。

そこで、平成30年民法(相続関係)等改正においても、上記贈与の規定の改正を踏まえた見直しが行われました。すなわち、遺贈の無償性を考慮して、遺贈義務者は、遺贈の目的である物又は権利を、相続開始の時(その後に当該物又は権利について遺贈の目的として特定すべき場合にあっては、その特定した時)の状態で引渡し、又は移転する義務を負うこととされています(本条1項)。
もっても、遺言者がこれとは異なる意思を遺言に示していた場合には、遺贈義務者はその意思に従った履行をすべき義務を負います(本条2項)。

条文の位置付け