相続とは、亡くなった人の権利と義務を、家族など一定の身分関係にある人が引き継ぐことをいいます。財産をもらえるということは想像がつくかもしれませんが、どのような権利を引き継ぐことになるのでしょうか。
はじめて相続を経験される方にとっては、何が相続されるのか想像がつきにくいかと思いますので、遺産の範囲について、解説してみたいと思います。
何を相続する?
相続に関する民法の条文を読んでみると、次のように定められています。
- 民法第896条
- 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
被相続人というのは、「亡くなった方」のことです。つまり、相続人は、原則として、亡くなった方のすべての権利義務を引き継ぐということです。
義務も相続する?
ここで、まず重要なことは、「義務」も引き継ぐということです。
亡くなった方が誰かからお金を借りていた場合、お金を返すという「義務」も、相続人が引き継ぐことになります。たとえば亡くなった方が知人から100万円を借りていた場合には、相続人の方が代わって100万円を返していかなければいけないわけです。
ただし、「相続放棄」という制度を利用することで、義務を引き継ぐことを免れることができます。ですから、亡くなった方に借金がなかったかどうかは、できるだけ早く確認しましょう。
相続放棄について、詳しく知りたい方は次の記事をご参照ください。
相続する権利
具体的な事例をもとに、どのような財産が遺産となるかを考えてみます。
以下では、さまざまな権利について記載していますが、すべて覚えなければいけないというわけではありませんので、ざっとお読みいただいて、相続ではどのような権利を引き継ぐのかを知っていただければと思います。
不動産
「相続」といってまず思い浮かぶのは、亡くなった方が住んでいた自宅ではないでしょうか。
亡くなった方が所有していた土地と建物などの不動産の所有権は、相続の対象となる遺産に含まれます。
亡くなっていた方が実際に不動産を所有していたかどうかを調べるためには、土地の地番や家屋番号が分かっているときには、登記事項証明書等を取り寄せ、不動産登記の内容を確認します。また、自宅以外にも土地や不動産を所有していたような場合には、固定資産税の通知や都税事務所や市区町村役場の資産税課で名寄帳を取り寄せるという方法もあります。
借地権、借家権
たとえば自宅のあった土地が借地である場合や、自宅が借家であった場合などには、借地権や借家権などの権利も、相続人が承継します。
ちなみに、被相続人が公営住宅に居住していた場合には、判例上、その相続人は、当該公営住宅を使用する権利を当然に承継するものではないものとされています。
動産
たとえば車や絵画などの動産も同じように相続の対象となります。
現金や預貯金
現金や預貯金なども相続の対象です。
亡くなった方は、生前、ご自身が銀行に預けていた預金につき、いつでも払戻しを請求することができましたが、相続人の方は、この払戻しを請求できる権利を引き継ぎます。もっとも、相続人が複数いる場合には、遺産分割を経てから、銀行に対して払戻しを請求することとなります。
(追記)
平成30年相続法改正により、遺産の分割前においても、一定の上限額の範囲内で、単独での払戻しが認められるようになりました。
相続法改正の概要 – 民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が成立しました
その他、相続の対象となる権利の例
たとえば、以下のような権利も、原則として相続の対象となります。
- 株式
- 社債
- 国債
- 投資信託
- 知的財産権
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- ゴルフ会員権
- ただし、預託保証金がなく、かつ株主会員制でもないゴルフ会員権の場合には、会則において相続を認めないことが一般的であり、この場合には相続の対象となりません。
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- 損害賠償請求権
- 死亡による慰謝料請求権も、相続の対象となると解されています。
遺産とはならないもの
遺産とはならないものとして、以下のような権利があります。
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- 親族間の扶養請求権
- 扶養の権利義務は、一身専属的なものであり、相続の対象とはなりません。
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- 祭祀財産
- 仏壇、位牌、お墓などの祭祀財産は、民法の別の規定で「慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する」と規定されており、相続財産とはなりません。
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- 保険金請求権
- 保険契約で保険金受取人として指定された方の固有の権利であって、原則として相続財産とはなりません。なお、民法上の相続財産とはなりませんが、相続税法上は、「みなし相続財産」として課税の対象とされています。
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- 死亡退職金
- 法律や条例、企業の就業規則等に受給者の定めがある場合には、当該受給者の固有の権利であって、相続財産とはなりません。また、死亡退職金も、民法上の相続財産には当たらなくても、相続税法上は「みなし相続財産」として課税の対象とされています。
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- 遺族給付
- 厚生年金保険法に定める遺族厚生年金などの社会保障法上の遺族給付は、受給権者の固有の権利であり、相続財産とはなりません。
弁護士がお役に立てること
遺産の範囲について問題が発生している場合には、弁護士への法律相談をご検討ください。
当事者同士でお話し合いがまとまらない場合には、民事訴訟(「遺産確認の訴え」)を利用することも考えられます。相続財産を調べた結果、借金などマイナスの財産の方が多い場合には、相続放棄もご検討ください。
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