民法第557条
  1. 買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後はこの限りでない。
  2. 第545条第4項の規定は、前項の場合には、適用しない。
平成29年改正前民法第557条
  1. 買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。
  2. 第545条第3項の規定は、前項の場合には、適用しない。

条文の趣旨と解説

手付の意味

手付とは、契約締結の際に、当事者の一方から、相手方に対して交付される金銭のことです。手付を交付する目的はさまざまですが、以下の3種が主要なものといわれています。

  • 証約手付
    契約が成立したことを示すためであり、手付の最小限度の効果です。
  • 解約手付
    当事者に解除権を留保するものです。
  • 違約手付
    契約上の債務を履行しない場合に、違約として没収されるものです。

民法は、手付を解約手付と推定しています(本条1項)。

平成29年民法(債権関係)改正

平成29年改正前民法557条は、「当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる」と定めていました。

「当事者の一方が契約の履行に着手するまで」という文言は、解約手付による解除をしようとする者が履行に着手した場合にも解除ができなくなるように読めますが、判例は、「解除権を行使する当事者が自ら履行に着手していた場合においても」「未だ履行に着手していない当事者に対しては、自由に解除権を行使し得る」(最高裁昭和40年11月24日大法廷判決)としていました。そこで、改正法では、この判例法理を明文化しました。

また、売主による手付倍戻しによる解除は、現実の払渡しまでは必要ではないが、「単に口頭により手付けの倍額を償還する旨を告げその受領を催告するのみでは足りず、買主に現実の提供をすることを要する」(最高裁平成6年3月22日第三小法廷判決)との判例を踏まえ、改正前民法557条の「償還」との文言が「現実に提供」と改められました

解約手付による解除の効果

解約手付により契約が解除された場合には、損害賠償請求権(545条4項)が生じません(本条2項)。これは、手付の損または倍戻しが、損害を補償する趣旨だからです。

条文の位置付け