民法第566条
売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。
平成29年改正前民法第566条
  1. 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
  2. 前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
  3. 前2項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知ったときから1年以内にしなければならない。

条文の趣旨と解説

改正前民法における売主の担保責任の期間制限

平成29年改正前民法は、売主の担保責任に、以下の期間制限を設けていました。

  • 売買の目的である権利の一部が他人に属する場合、数量を指示して売買をした物に不足がある場合、物の一部が契約のときに既に滅失していた場合には、買主が善意であったときには事実を知ったときから、悪意であったときには契約の時から、それぞれ1年以内(改正前564条改正前565条
  • 売買の目的物に地上権等の用益物権等が設定されていた場合には、買主が事実を知った時から1年以内(改正前566条3項)
  • 売買の目的物に瑕疵があった場合には、買主が事実を知った時から1年以内(改正前570条・改正前566条3項)

上記の期間内に、買主は「具体的に瑕疵の内容とそれに基づく損害賠償請求をする旨を表明し、請求する損害額の算定の根拠を示すなどして、売主の担保責任を問う意思を明確に告げる必要がある」とされていました(最高裁平成4年10月20日第3小法廷判決)。

平成29年民法(債権関係)改正

物の「種類」又は「品質」に関して契約の内容に適合しない場合

改正民法では、引き渡された目的物が「種類」又は「品質」に関して契約の内容に適合しない場合には、買主はその不適合の事実を知った時から1年以内にその旨を売主に通知をしなければならないとされました。

期間制限を設けた理由として、①目的物の引渡し後は履行が終了したとの期待が売主に生ずることから、このような売主の期待を保護する必要があること、②物の瑕疵の有無は目的物の使用や時間経過による劣化等により比較的短期間で判断が困難となるから、短期の期間制限を設けることにより法律関係を早期に安定化する必要があると説明されています(部会資料75A)。

改正前民法下における上記判例に対しては、損害賠償請求をする旨の表明等が買主に過重な負担を課すものであるとの指摘があったことから、判例の示す権利保存の要件を緩和して、売主に対する契約不適合の「通知」で足りることとされています

本条の期間制限は、履行が終了したとの売主の期待を保護するものであるところ、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかった場合には、買主の負担の下に売主に期間制限の恩恵を与える必要性に乏しいことから、そのような悪意又は重過失のある売主には期間制限は適用されません(本条ただし書)。

物の「数量」に関して契約の内容に適合しない場合

物の種類又は品質に関する契約不適合の場合と異なり、「数量」の不足は外形上明白であり、履行が終了したとの期待が売主に生ずることは通常考え難いことから、買主の権利に期間制限を適用してまで、売主を保護する必要性は乏しいといえます。また、数量不足の場合は、物の種類又は品質に関する不適合と異なり、短期間で瑕疵の有無の判断が困難となるとはいえません。
そこで、数量に関して契約不適合である場合における買主の権利については、期間制限は適用されないこととされました

移転した権利が契約の内容に適合しない場合、権利の一部が移転されない場合

権利移転義務の不履行についても、契約の内容に適合した権利を移転したという期待が売主に生ずることは想定し難く、また、短期間で契約不適合の判断が困難になるとも言い難いことから、期間制限は適用されないこととされました

条文の位置付け