民法第533条
双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。
平成29年改正前民法第533条
双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。

条文の趣旨と解説

当事者双方が互いに対価的な意義を有する債務を負担する双務契約において、自己の債務を履行せずに、相手の債務のみの履行を請求することは、公平に反すると考えられます。そこで、双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことが認められています(「同時履行の抗弁権」)。

平成29年民法(債権関係)改正

同時履行の抗弁権が成立するためには、同一の双務契約から生じた債務が存在することが要件となりますが、そうすると、本来の給付が履行不能となった場合における損害賠償請求権については、契約から生じたものといえるかが問題となります。
もっとも、平成29年改正前民法下における解釈でも、本来の給付の履行請求権と本来の給付が履行不能となった場合の損害賠償請求権は、同一の性質を有することから、履行不能となった場合でも同時履行の抗弁権は失われないと解されてきました。
改正民法では、この解釈を明確にするため、本条本文において「(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)」との文言が挿入されています。

同時履行の抗弁権の効果

(1) 相手方の履行の提供があるまでは、自己の債務の履行を拒むことができます。
ただし、訴訟において、被告から同時履行の抗弁権が主張された場合、原告の請求が棄却されるのではなく、被告に対して、原告の給付と引換えに給付すべき旨を命じる判決が下されることとなります(大審院明治44年12月11日判決)。

(2) 同時履行の抗弁権を有する債務者は、履行遅滞とならないと解されます。
したがって、債務不履行責任(415条)を負うことはなく、また、相手方が契約の解除(541条)をするためには、自己の債務を提供しなければなりません(最高裁昭和35年10月27日第一小法廷判決)。

(3) 同時履行の抗弁権が付着する債権を自働債権として相殺することは認められないと解されています(大審院昭和13年3月1日判決)。

条文の位置付け