民法第536条
  1. 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
  2. 債権者の責に帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
平成29年改正前民法第534条
  1. 特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その者が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。
  2. 不特定物に関する契約については、第401条第2項の規定によりその物が確定した時から、前項の規定を適用する。
平成29年改正前民法第535条
  1. 前条の規定は、停止条件付双務契約の目的物が条件の成否が未定である間に滅失した場合には、適用しない。
  2. 停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰することができない事由によって損傷したときは、その損傷は、債権者の負担に帰する。
  3. 停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰すべき事由によって損傷した場合において、条件が成就したときは、債権者は、その選択に従い、契約の履行の請求又は解除権の行使をすることができる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。
平成29年改正前民法第536条
  1. 前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
  2. 債権者の責に帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

条文の趣旨と解説

債権者主義を定めた規定の廃止

平成29年改正前民法534条は、特定物売買における債務者の帰責事由によらない目的物の滅失又は損傷に関する危険負担の債権者主義を定め、目的物の滅失又は損傷の危険は、契約と同時に債権者に移転すると理解されていました。しかし、この債権者主義に対しては、その帰結が不当であるとの批判が向けられ、実務上は引渡時に危険が移転する旨の契約条項を定めたり、解釈上も債権者主義の適用を狭める解釈が提唱されたりしていました。
そこで、民法改正においては、債権者主義を定めた規定が削除されることとなりました。これにより、債務者主義を定めた民法536条の規定がすべての双務契約に適用されることになります。

履行拒絶構成

平成29年改正前民法536条1項は「反対給付を受ける権利を有しない」と定めており、危険負担の効果として反対給付債務は当然に消滅するものとされていました。他方で、平成29年民法改正における、解除の要件の変更により、債権者は、債務者の帰責事由を問うことなく、契約解除をすることができるようになりました。
そのため、改正前民法536条1項の規定をそのまま維持するとすれば、双方に帰責事由がない場合の反対債務について、危険負担と解除という制度が重複することが問題となりました。
そこで、改正法においては、危険負担の効果を反対給付債務を当然に消滅とするのではなく、反対債務の「履行を拒むことができる」という履行拒絶権を付与するという構成に改められました。

条文の位置付け