民法第562条
  1. 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
  2. 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。
平成29年改正前民法第562条
  1. 売主が契約の時においてその売却した権利が自己に属しないことを知らなかった場合において、その権利を取得して買主に移転することができないときは、売主は、損害を賠償して、契約の解除をすることができる。
  2. 前項の場合において、買主が契約の時において買い受けた権利が売主に属しないことを知っていたときは、売主は、買主に対し、単にその売却した権利を移転することができない旨を通知して、契約の解除をすることができる。

条文の趣旨と解説

平成29年民法(債権関係)改正では、売主は、買主に引き渡すべき目的物が特定物か種類物であるかを問わず、種類、品質及び数量に関して、契約の内容に適合した目的物を引き渡す義務を負うことを前提として、引き渡された目的物が契約に適合しない場合における買主の救済手段を規定することとされました。
本条は、契約不適合の場合における買主の救済手段の一つとして、買主に履行の追完を請求する権利を規定しています

追完請求権

平成29年改正前民法には、目的物に瑕疵があった場合に、買主がその修補や代替物の引渡しといった履行の追完の請求をすることができるか否かについては明文の規定がありませんでした。学説においては、特定物売買における売主の債務は、「その特定した物の所有権を買主に移転することに尽きるものであって、これが果たされた限り売主の債務は履行されている」として、修補等の追完請求を認めない見解も有力に主張されていました(柚木馨・高木多喜男『新版注釈民法』)。

しかし、工業製品等の売買では修補又は代替物の引渡しといった追完による対応を認めることが合理的と考えられること等から、平成29年民法(債権関係)改正によって、買主の追完請求権が規定されることとなりました。

買主は、引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、売主に対し、目的物の修補代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができます(1項本文)。

履行の追完の方法

目的物が契約に適合しない場合に、修補を請求するか、代替物等の引渡しを請求するかは、原則として買主の選択に委ねられますが(1項本文)、買主に不相当な負担を課するものでないときは、売主は、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができます(1項ただし書)。

追完請求をすることができない場合

契約不適合が買主の帰責事由による場合

契約不適合が買主の帰責事由による場合にまで買主に履行の追完の権利を認めるのは売主に酷であると考えられること、契約の解除や代金減額請求、損害賠償請求が、買主に帰責事由がある場合には行使することができないとされていることとの均衡から(法制審議会民法(債権関係)部会「部会資料81-3」)、買主に帰責事由がある場合には履行の追完の請求をすることができないものとされました(2項)。

追完が不能である場合

追完が不能である場合には、412条の2第1項(債務の履行が不能である場合の規律)により、追完の請求をすることができません(「部会資料75A」)。これには、物理的に不能である場合に限らず、追完に要する費用が買主が追完によって得る利益と比べて著しく過大なものである場合も含まれると解されています(中田裕康『契約法新版』)。

条文の位置付け