民法第567条
  1. 売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払いを拒むことができない。
  2. 売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その債務の引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することが事由によってその目的物が滅失し、又は損傷したときも、前項と同様とする。
平成29年改正前民法第567条
  1. 売買の目的である不動産について存した先取特権又は抵当権の行使により買主がその所有権を失ったときは、買主は、契約の解除をすることができる。
  2. 買主は、費用を支出してその所有権を保存したときは、売主に対し、その費用の償還を請求することができる。
  3. 前2項の場合において、買主は、損害を受けたときは、その賠償を請求することができる。

条文の趣旨と解説

改正前民法534条は、特定物売買における債務者の帰責事由によらない目的物の滅失又は損傷に関する危険負担の債権者主義を定め、目的物の滅失又は損傷の危険は、契約と同時に債権者に移転すると理解されていました。しかし、この債権者主義に対しては、その帰結が不当であるとの批判が向けられ、改正前534条の適用場面を、目的物の実質的な支配が売主から買主に移転した後に限定する解釈が支持を得ていました。また、契約実務においても、原則として、目的物の引渡しの時に目的物の滅失等の危険が売主から買主に移転するとの扱いが定着していたといえます。

そこで、改正法では、目的物の滅失又は損傷に関する危険の移転の時期を、目的物の引渡時と定めました。その上で、「危険の移転」が意味するところを具体的に明記し、買主は、目的物の引渡し時以後に生じた目的物の滅失又は損傷を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができず、代金の支払いを拒むことができないと規定しています(本条1項)。

また、受領遅滞(改正前民法413条)の効果として、売主から買主に目的物の滅失又は損傷に関する危険が移転すると解されていました。そこで、買主が受領遅滞の場合、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することが事由によってその目的物が滅失又は損傷したときも、買主は、担保責任の追及をすることができず、また代金の支払いを拒むことはできないものとされました(2項)。

条文の位置付け