民法第612条
  1. 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
  2. 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。

条文の趣旨と解説

賃貸借契約が賃借人その人に対する信用に基づいて締結されるものであることから、賃借人は、賃貸人の承諾を得なければその権利を譲渡し、又は賃借物を転貸することはできません(本条1項)。
これに違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときには、賃貸人は、賃貸借契約を解除することができます(本条2項)。もっとも、判例によれば、第三者に使用又は収益をさせた場合であっても「賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情がある場合においては、同条の解除権は発生しない」とされています(最高裁昭和28年9月25日第二小法廷判決)。この特段の事情の存在は、賃借人において主張、立証すべきものと解されています(最高裁昭和41年1月27日第一小法廷判決)。

なお、建物所有を目的とする土地の賃借権(借地権)については、借地借家法において、承諾に代わる許可の制度が設けられています。すなわち、借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができるものとされています(借地借家法19条1項前段)。

条文の位置付け