民法第563条
  1. 前条第1項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
  2. 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。
    • 履行の追完が不能であるとき。
    • 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
    • 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
    • 前三号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。
    • 第1項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前2項の規定による代金の減額の請求をすることができない。
平成29年改正前民法第563条
  1. 売買の目的である権利の一部が他人に属することにより、売主がこれを買主に移転することができないときは、買主は、その不足する部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる。
  2. 前項の場合において、残存する部分のみであれば買主がこれを買い受けなかったときは、善意の買主は、契約の解除をすることができる。
  3. 代金減額の請求又は契約の解除は、善意の買主が損害賠償の請求をすることを妨げない。

条文の趣旨と解説

平成29年民法(債権関係)改正では、売主は、買主に引き渡すべき目的物が特定物か種類物であるかを問わず、種類、品質及び数量に関して、契約の内容に適合した目的物を引き渡す義務を負うことを前提として、引き渡された目的物が契約に適合しない場合における買主の救済手段を規定することとされました。
本条は、契約不適合の場合における買主の救済手段の一つとして、代金の減額を請求する権利を規定しています

代金減額請求権

平成29年改正前は、権利の一部移転不能(改正前563条)や数量不足の場合(改正前565条)には代金減額請求を認める規定がありましたが、引き渡された目的物が契約の内容に適合しない場合については、代金減額請求を認める規定はありませんでした。しかし、目的物に契約不適合があった場合にも、対価関係にある債権債務の等価的均衡を維持する必要性があること等から、平成29年民法(債権関係)改正によって、目的物が契約の内容に適合しない場合の代金減額請求権が新設されました(1項)。

代金減額請求権の行使要件

売主の追完に対する利益に配慮する観点から、原則として、買主は相当の期間を定めて履行の追完の催告をすることを要し、その期間内に履行の追完がないときに、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができるものとされています(本条1項)。
しかし、履行の追完をする売主の利益に配慮する必要がない場合には、履行の追完の催告が無意味となります。そこで、無催告で解除をすることができる要件(542条)に準じて、代金減額請求権の行使要件としての履行の追完の催告が不要となる場合が規定されています(本条2項)。

代金減額請求をすることができない場合

契約不適合が買主の帰責事由によるものである場合にまで代金減額請求を認めるべきではないと考えられます(部会資料75A)。また、代金減額請求は契約の一部解除と考えられますが、債務不履行が債権者の帰責事由によるものであるときは契約の解除をすることができないこととされています(543条)。そこで、契約不適合が買主の帰責事由によるものであるときには代金減額請求ができないこととされました(本条3項)。

条文の位置付け