- 民法第564条
- 前二条の規定は、第415条の規定による損害賠償の請求並びに第541条及び第542条の規定による解除権の行使を妨げない。
- 平成29年改正前民法第564条
- 前条の規定による権利は、買主が善意であったときは事実を知ったときから、悪意であったときは契約の時から、それぞれ1年以内に行使しなければならない。
条文の趣旨と解説
平成29年民法(債権関係)改正では、売主は、買主に引き渡すべき目的物が特定物か種類物であるかを問わず、種類、品質及び数量に関して、契約の内容に適合した目的物を引き渡す義務を負うことを前提として、引き渡された目的物が契約に適合しない場合における買主の救済手段を規定することとされました(562条以下)。
本条は、契約不適合の場合における買主の救済手段の一つとして、買主が、一般原則に基づき、債務不履行による損害賠償又は契約の解除をすることができることを規定しています。
損害賠償請求について
平成29年改正前民法570条において準用する改正前民法566条は、「売買の目的物に隠れた瑕疵があったとき」は、買主は、損賠賠償の請求をすることができると定めていました。この規定は、売主の帰責事由を要件としておらず、また、法定責任説の立場から、賠償の範囲は、瑕疵のないものについて売買が成立したと信頼したことによる損害(信頼利益)の賠償に限られるという解釈が主張されていました。
改正法では、引き渡された目的物が契約の内容に適合しない場合には債務は不履行であるとの整理を前提として、債務不履行の一般原則(415条以下)に従って、損害賠償の請求が認められます。したがって、損害賠償請求の要件として売主の帰責事由が必要となりますが(415条1項ただし書)、損害賠償の範囲については履行利益に及び得ることとなります(416条)。
契約の解除について
平成29年改正前民法570条において準用する改正前民法566条は、売買の目的物に隠れた瑕疵がある場合、「契約の目的を達することができないとき」に限り、買主は「契約の解除をすることができる」と定めていました。
改正法は、解除の一般原則(541条以下)に従います。したがって、売主の帰責性は必要とされませんが、契約の解除をするためには、原則として履行の追完の催告をすることが必要となります(541条)。また、契約不適合の程度が「その契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」は解除が認められません(541条ただし書)
条文の位置付け
- 民法
- 債権
- 契約
- 売買
- 民法第555条 – 売買
- 民法第556条 – 売買の一方の予約
- 民法第557条 – 手付
- 民法第558条 – 売買契約に関する費用
- 民法第559条 – 有償契約への準用
- 民法第560条 – 権利移転の対抗要件に係る売主の義務
- 民法第561条 – 他人の権利の売買における売主の義務
- 民法第562条 – 買主の追完請求権
- 民法第563条 – 買主の代金減額請求権
- 民法第564条 – 買主の損害賠償請求及び解除権の行使
- 民法第565条 – 移転した権利が契約の内容に適合しない場合における売主の担保責任
- 民法第566条 – 目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限
- 民法第567条 – 目的物の滅失等についての危険の移転
- 民法第568条 – 競売における担保責任等
- 民法第569条 – 債権の売主の担保責任
- 民法第570条 – 抵当権等がある場合の買主による費用の償還請求
- 民法第572条 – 担保責任を負わない旨の特約
- 民法第573条 – 代金の支払期限
- 民法第574条 – 代金の支払場所
- 民法第575条 – 果実の帰属及び代金の利息の支払
- 民法第576条 – 権利を取得することができない等のおそれがある場合の買主による代金の支払の拒絶
- 民法第577条 – 抵当権等の登記がある場合の買主による代金の支払の拒絶
- 民法第578条 – 売主による代金の供託の請求
- 民法第579条 – 買戻しの特約
- 民法第580条 – 買戻しの期間
- 民法第581条 – 買戻しの特約の対抗力
- 民法第582条 – 買戻権の代位行使
- 民法第583条 – 買戻しの実行
- 民法第584条 – 共有持分の買戻特約付売買
- 民法第585条 – 共有持分の買戻特約付売買
- 売買
- 契約
- 債権