民法第605条の2
  1. 前条、借地借家法第10条又は第31条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。
  2. 前項の規定にかかわらず、不動産の譲渡人及び譲受人が、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨及びその不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人たる地位は、譲受人に移転しない。この場合において、譲渡人と譲受人又はその承継人との間の賃貸借が終了したときは、譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は、譲受人又はその承継人に移転する。
  3. 第1項又は前項後段の規定による賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない。
  4. 第1項又は第2項後段の規定により賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは、第608条の規定による費用の償還に係る債務及び第622条の2第1項の規定による同項に規定する敷金の返還に係る債務は、譲受人又はその承継人が承継する。

条文の趣旨と解説

平成29年民法(債権関係)改正により新設された規定です。
改正前605条の「物権を取得した者に対しても、その効力を生ずる」という規定を、(ア)第三者に対する賃借権の対抗の問題と(イ)第三者への賃貸人たる地位の移転の問題とに区別し、改正後605条で(ア)について規律し、本条では(イ)を規律することとされました。

賃貸人たる地位の移転

605条又は借地借家法等により賃貸借の対抗要件を備える場合において、賃貸人がその土地を第三者に譲渡したときは、新所有者はその賃貸借契約に基づく旧所有者の権利義務を承継し、旧所有者は賃貸人たる権利義務関係から離脱する(大審院大正10年5月30日判決)という判例法理が明文化されました(本条1項)。また、新所有者は、所有権の移転につきその登記を経由しなければ、賃貸人たる地位を主張することができない(最高裁昭和49年3月19日第三小法廷判決)という判例法理も明文化されました(本条3項)。

賃貸人たる地位の留保

上記のように賃貸人たる地位の当然承継が生ずる場面においても、旧所有者と新所有者との間の合意によって賃貸人たる地位を旧所有者に留保するというニーズがあると指摘されていました。他方で、賃貸人たる地位を留保したまま賃貸不動産の所有権のみを移転させると、賃借人は所有権を失った旧所有者との間で転貸借等の関係に立つこととなってしまうことから、このような賃借人の地位を不利益にも配慮する必要があります(『民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明』)。

そこで、賃貸人たる地位を留保させるためには、旧所有者と新所有者との間で、賃貸人たる地位を留保する旨の合意に加えて、新所有者を賃貸人、旧所有者を賃借人とする賃貸借契約を締結することが要件とされました。その上で、当該賃貸借契約が終了したときは、賃貸人たる地位が旧所有者から新所有者またはその承継人に当然に移転するものとされました(本条2項)。

敷金返還債務及び費用償還債務の移転

敷金返還債務(622条の2第1項)及び費用償還債務(608条)は、当然に新所有者に移転することが規定されました(本条4項)

条文の位置付け